ミラノ万博という巨大事業に見るエクスペリエンスデザイン

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IDEOデザインディレクター・ビジネスデザイナー

ミラノ万博の導線設計から学ぶ、デジタルプロダクトにおけるエクスペリエンスデザインの3つのポイントをご紹介。

2015年の夏、私はミラノ万博に行った。国際博覧会は、初めは最新の製品や技術を紹介する目的で開かれていたが、現在では、開催ごとにテーマを決め、それに沿った体験をできるような機会を提供する場となっている。今回のテーマは「地球に食料を、生命にエネルギーを」であり、世界的な食糧問題や、未来食に焦点を当てていた。各国のパビリオンでは、それぞれ違った視点から展示を行っていた。英国館では養蜂がテーマに掲げ、クウェート館では砂漠という環境で生きる生命の姿が紹介されていた。

新しいサービスや経験をクライアントと一緒に作り上げていくデザイナーの1人として、私は、この万博のような大規模な事業を見学するのにとても興奮していた。展覧会もデジタルプロダクトと同様で、ユーザに経験や商品、デジタルサービスをどのような方法で提供するかというのはとても重要である。提供者に支持を受けるか、完全に拒絶されるかはそのやり方次第だ。

ミラノ万博で私が学んだ、エクスペリエンスデザインにも応用できるようなヒントを3つご紹介する。

1. 「ランディングページ」は物理的な経験にも存在し、1番伝えたいメッセージを見せるべきである。

万博の入り口に立っている、パビリオン・ゼロが今回の経験では「ランディングページ」に当たる。あなたはこれをこの場所に建てるべきだったか、それともこんな条件のいい場所に建てるべきではないと思うだろうか。


ミラノ万博のパビリオン・ゼロ。写真提供:ミラノ国際博覧会

ここに入る、もしくは「(ランディングページに例えて)クリック」する人は多いだろう。ミラノ万博の会場面積は約334ヘクタールにもおよび、他のどのパビリオンへ行こうかと考えるよりも目の前のパビリオン・ゼロに入るほうが気軽だからだ。

この万博におけるランディングページを見て、私はこの最初のクリックのあとには何が起こるのだろうと考えた。中に入ってその答えが分かった。パビリオン・ゼロでは農業の歴史に関しての、美しい展示がされていた。ここで私は安心し、確信を持てた。なぜなら、そこでは何をすればいいかは十分すぎるくらい明白だったからだ。


パビリオン・ゼロにあった、初期の近代農業の展示。

注意すべきこと

  • 「ランディングページ」では何を一番伝えたいのか。
  • ユーザが「ランディングページ」をスルーした場合、何が起こるか。
  • 最初にそこにたどり着いた時、ユーザに何をしてもらいたいか。

2. 情報過多を避け、ユーザがその瞬間にすべきことに焦点を絞る

各国の展示の中でも大きな話題を呼んでいたのは、Future Food District(未来食エリア)だった。これは、MITのセンシアブル・シティ研究所と、Carlo Ratti氏のデザイン事務所、イタリアのスーパーマーケット・チェーンのCOOPが共同でプロデュースした未来のスーパーマーケットだ。ここでの一番の注目は、商品がスキャンできるという画期的なシステム(いわば「食べ物のIoT」)だ。商品をディスプレイに近づけるとスクリーンに、価格や栄養素、原産地などのさまざまな情報が表示される。


Future Food Districtの様子。双方向ディスプレイが設置されている。

何回かやってみる分には楽しい(毎回きちんとディスプレイに表示されるのは、言うまでもなく驚きである)が、ふと思うことがあった。実際にこんな店があったらいいな、とは思うだろうか。

答えは、「ものによる」だろう。

食料品店に売っている新鮮なブロッコリーの栄養素や原産地を消費者が知る必要はないだろうが、50ドルのボトルワインについてもっと詳しく知りたいとは思うだろう。

正しい情報をシェアするということは、すべての情報をシェアするというのとは違う。システム的には多くのことをシェアすることはできる。商品のメリット、製造過程、興味深い背景などだ。しかし、実際にユーザがその時に必要としている情報と、デザイナーとして私たちが重要だと感じる情報は別物だ。この違いを理解すれば、素晴らしいものを完成させることができる。

注意すべきこと

  • ユーザが知るべき、最も重要な情報は何か。
  • それらの仮定を早くテストするにはどうしたらいいか。
  • 効率や新発見を優先するのに正しい(もしくは間違った)場面とはいつなのか。

3. 休憩はエクスペリエンスにおいても重要であり、ユーザに直接オファーするのではなく、デザインする必要がある。

ミラノ万博の全体のサイズは、私の想像をはるかに超えていた。巨大なエントランスに、パビリオン同士をつなぐ延々と続く歩道。この万博には圧倒された。初めてディズニーランドに行った時のような感覚だった。いろんなことが同時に起こっているのだ。

パビリオンをいくつか見学し、休憩がしたくなった。簡単に少しでいいからリラックスできる何かを求めていた。

ミラノ万博ではそれが完璧に用意されていた。きれいにデザインされた売店やブース、そして至る所にある座ることのできる空間が準備され、エスプレッソを飲むことができたり、木陰で休んだりできた。私は、次に進む前に、コーヒーを片手に数分の休憩を取ることができた。


ミラノ万博にあったラバッツアのコーヒショップ。休憩を取ることができる。

ミラノ万博では、文字通りの休憩をとれる場所も提供があったが、この考え方はデジタルの世界にも応用できる。ユーザがリラックスできる時間をデザインすることで、彼らが疲労し離れてしまうことを避けられる。

中国のオアビリオンでは、このような照明の展示を設け、リラックスできる場所を提供していた。

休憩をデザインするのに、複雑なことを考える必要はない。一瞬のことでもいいし、小さな見返りでもいい。長いオンラインの過程の中では、単純に1ページ分の休憩をデザインするのでもいい。もし、あなたが休憩をデザインしないと決めたとすると、ユーザがあなたのために休憩を1つデザインしてくれることになる。それは、ユーザがあなたのデザインから去ることである。

注意すべきこと

  • ユーザが疲労を感じるのはどんな時か。
  • 終了、ではなく休憩をどうデザインするか。
  • 経験を通して、どのように人々に見返りを提供するか。

まとめ

デザインされた経験は、シンプルで直感的である。人々はそのように感じた時に心地よく思うのだ。しかし、細かく分析していくと、ちょっとしたことで大きな違いを生み出すことが分かる。私がそのことを理解したのは、万博でコーヒーを片手に休憩を取っていた時のことだった。ミラノ万博のテーマ「地球に食料を、生命にエネルギーを」と、世界規模の解決を求めるこのテーマには本当に胸を打たれた。

あなたのエクスペリエンスをより良くするには何が必要だろうか?

この記事を書くに当たってサポートをしてくれた@rohinivibhaに感謝する。