友達とチャットするようなChatbotを作る – 対話型インターフェースの事例

Source


心理学とテクノロジー、経営学を中心に執筆、教授活動を行っているコンサルタント。
Hooked: ハマるしかけ』著者。

先日ランチミーティングをセッティングしようと思った時のことだ。私はAmyにスケジュールの調整を頼むため、ccでメールを送った。「Amyへ、ランチを設定してほしい。Spear StreetにあるTokyo Expressのお寿司を食べながらミーティングをしたい。」という内容で送った。するとAmyはみんなの予定表を確認し、出席者全員が参加可能な日程でミーティングを設定してくれた。

Amyはアシスタントのように働いてくれているが、実は人間ではない。AI botなのだ。自然言語処理を得意とする、スケジューリングアシスタントを専門に製作するX.aiが開発した。Amyはbotなので、お礼を言う必要はないが、あまりにも素晴らしい働きぶりなので、つい感謝してしまう。

It’s easy to forget Amy, an ai bot made by X.ai, isn’t human. Image source: x.ai
Amyが人間ではなく、X.ai製のAI botであることをつい忘れてしまう。画像出典:x.ai

ネット上でのAI botの盛り上がりは無視できない。2016年にFacebook Messengerをchat bot開発コミュニティに公開して以来、わずか5ヶ月で30,000以上のbotが構築された(FacebookのDavid Marcusが発表)。GoogleAmazonSlackなどもbot構築開発者にそれぞれのプラットフォームを公開していて、Slackではチャットボットプロジェクトを支援するために9億円の基金が作られた。

IT業界の傾向ではあるが、現在bot製作をしている会社の多くは生き残れないだろう。しかし絶大な影響を与える事は確かで、ソフトウェアやサービスとの付き合い方に変化をもたらすことになる。

Botが勝ち残れるか否かを決定づけるのは、ユーザーに使い続けてもらえるか否かである。日常使いされないパーソナルテクノロジーは、忘れ去られるのも簡単だ。多くのbotは他社のプラットフォーム上に構築されているため、Facebook MessengerやAmazon Echo、WeChat、Slackのように常に利用され続けられるものでなければ存在している意味がない。

では、使われるbotとは何か。ユーザーが日常使いしたくなるのはどのようなbotなのだろう。

Botの領域を越えて拡張する会話型ユーザーインターフェース

まずは、みんなが「bot」と呼んでいる物とは何か?を理解し、今後起こりうる最大限の技術的変化を考えてみるためには、「bot」と呼ばれるものを拡大解釈し、より大きく、より面白い技術的変化として考えたほうが分かりやすいだろう。「bot」は確実に新興サービスに役立つものとして活躍する人工知能を示す流行語になっているが、それは話のほんの一部にすぎない。botが特別なのは、botとの付き合い方やそれに応じて設計されている点だ。

AI botは、ドロップダウンメニューやアプリメニューの退屈なタップ操作の代わりに、声で簡単に操作できる会話型ユーザーインターフェイス(以下CUI)を使用している。CUIの画面はテキストメッセージに見え、携帯電話を持っていれば誰にでも理解できるインターフェイスである。

CUIは画面が必要とは限らず、音声交換でも見事に操作できる。条件がそろえば、CUIコミュニケーションは、あたかも親しい友人やアシスタントとのおしゃべりのように感じられる。例えばSF映画の『アイアンマン』に出てくるバーチャル執事のJarvisや『her/世界でひとつの彼女』に出てくるバーチャルガールフレンドのSamanthaが、いずれ実現可能になるであろうことを熱狂的な技術者らは期待している。

Conversational User Interfaces (CUIs) turn the tediousness of tapping through drop-downs and app menus into the simple act of asking. Image credit: ThinkMobiles
注釈:会話型ユーザーインターフェイス(CUI)は、ドロップダウンメニューやアプリメニューの退屈なタップ操作に代わって、簡単に声で操作できる。画像出典:ThinkMobiles

会話を続けさせることができる仕組み

Ohio UniversityのInterpersonal CommunicationのWilliam Rawlins教授曰く、CUIとのコミュニケーションを親しい友人との会話のような体験として実現するためには、以下の3つの資質が設計に組み込まなけれていなければならない。話しやすい楽しい信頼できる
人はテクノロジーを使用する習慣を身につけるように、信頼できる人への接し方を身につけるのだ。

自著の『Hooked: How to Build Habit-Forming Products』(訳注:日本語版『Hooked ハマるしかけ 使われつづけるサービスを生み出す「心理学」×「デザイン」の新ルール』でも書いているように、会社が活用するユーザーを虜にする4ステップのフックモデルがある。トリガー(きっかけ)、アクション(行動)、リワード(報酬)、インベストメント(投資)だ。意識的であろうと、無意識であろうと、技術の確認作業を毎日何百回も繰り返すのは、フック(虜にするもの)を確認しているからなのだ。このフックモデルとRawlins教授の3つの資質を組み合わせれば使い心地の良い、使い続けてもらえるテクノロジーの設計のヒントになり、最高のCUIを構築する鍵となる。

The same “hook” that makes products habit-forming is also what makes friendships last.
注釈:製品の使用習慣を身につける「フック」という概念は、友情を長続きさせるものでもある。

習慣を変える最初のステップは、「内部トリガー(internal trigger)」(個人的な造語である)を明確にすることだ。内部トリガーとは、新しい製品を使用する前に瞬間的に感じる心理的苦痛である。そのため人は寂しいと思った時にFacebookをチェックしたり、分らないと思った時にGoogleで検索をしたり、仕事の後、疲れを感じた時にYouTubeで動画を見たりするのである。これらのサービスは人々の負の感情に強く関連して使用されることが多いのだ。友人に電話をかけるのも同じような心理からきており、その延長にCUIの使用があるのだ。

例えば、Sensay.coは、AI botで全くの他人同士の連絡を可能にしてくれる。この会社はメッセンジャやSMSを介して150万人もの人にサービスを展開している。CEOのAriel Jalaliは、Sensay.coを「つまらないと思った人や決断ができない人などが、必要な情報を持っている人にコンタクトできる場所として最初に来てくれる場所」にしたいそうだ。

匿名の誰かのちょっとしたアドバイスや、深い議論など、Sensay.coはいつもSNSでつながっていたいと思う人々にサービスを提供したいと考えている。Sensay.coは、バックエンドにAI botを組み込み、簡単な会話型インターフェイスで人々ををつなげるサービスを実現させた会社の例である。つまりかゆい所に手が届くサービスを提供している会社だ。

Sensay.co uses text messages to quickly connect strangers in need. Image source: Sensay.co
注釈:Sensay.coは困っている人をすぐにテキストメッセージでつなげてくれる。画像出典:Sensay.co

シンプルな行動を自然に促す

フックモデルの次のステップは「アクション(Action)」である。例えば、Facebookのフィードをスクロールできるといったような、何らかの見返りを得ることができる単純な行動である。友人に話しやすいようにCUIも話しやすくなければならない。このアクションの段階が、よく設計されたCUIが従来のアプリよりも勝ることができる点なのだ。CUIは必要な瞬間に情報や機能を提供してくれるのだ。しかも、複雑なメニューやオプションをタップすることもなければ、メールから予定表に移動する際に必要なアプリからアプリへの移動も必要ないのだ。

例えば、Googleが発表したスマートフォン『Google Pixel』の機能の1つ、Google Assistantのデモで、複数の異なるサービスを統合して必要な情報を必要な時に提供できる便利さを見せてくれた。例えば、2人の間でレストランに関するやり取りがあった場合、Google Assistantは内容を理解した上でGoogle Mapを使用して行き方を教えてくれ、OpenTableを使用して予約してくれるのだ。何が必要になるかを予測して、それに応じたサービスを組み合わせて提供してくれるのだ。このようにCUIはコミュニケーションを簡単にしてくれる。

手軽に楽しく欲しいものが得られる

フックモデルの次のステップは「報酬(Reward)」である。報酬はユーザーが必要としているものを提供することで、かゆい所をかいてくれている。さらにはユーザーの欲しいという感情を増幅している。楽しい友人とは常に関わりを持っていたいと思うように、よいCUIも常用したいと思わせるのだ。

例えば、個人的なことだが自分は、Quartzを毎日使用している。Quartzは簡単な会話形式で提供してくれるニュースアプリで、多くの意味で楽しく、簡単である。

まずQuartzは、ニュースを提供しつつもジョークや動画を織り交ぜて提供してくれるため、全く飽きることがない。それでいてQuartzは多くを要求しない。CUIによって記事の概要を表示してくれ、元の記事を開かずにニュースの重要なポイントを知ることができる。似たような他サイトとは異なり、Quartzはユーザーに記事全文を読んでもらうことを重視していない。概要のみを知りたいユーザー心理を理解している。もし、全文を読みたいという場合は、リンクをクリックして読めばいいのだ。

さらに、他のニュースサイトは広告収入を上げるため、ユーザーに複数の記事をスクロールさせるが、QuartzのCUIは必要な情報を必要なだけ提供する。「最新ニュースは以上です。また後で」というメッセージを出してさっさと去るように促してくれるのだ。
「知っておくべき本日のニュースは読んだ」とQuartzが教えてくれることで、知りたいことが分かったと満足できるのだ。他のニュースサイトでは、提供された記事を読まないことが後ろめたく感じる。しかし、Quartzは時間をかけて記事を読むことを要求しないし、ニュース記事だけでなく、ユーザーが飽きないようにユーモアや驚きも提供してくれるため、気軽に楽しくアクセスできるのだ。

Quartz uses a CUI to tell me when I’m “all caught up!” on the day’s news.
注釈:QuartzはCUIで「最新ニュースは以上です」と教えてくれる。

信頼に足る友人はあなたを決して忘れない

例えば友人とランチしたとする。一緒のテーブルに座り食事を楽しみながら、自分に起こった出来事を話す。そのような場合、友人の前では心を開いているため、無防備になる。脆さが人と人の絆を強めるきっかけになるため、友人に会った後は改めて友情がありがたいものに思える。

では、次に同じ友人に会った時、前回ランチで話したことを全く覚えていなかったらどうだろう。心を開いて話したことが全く相手の記憶に残らなかった、または、そもそも全く聞いていなかったとしたらどうだろう。相手が記憶障害を持っていない限り、友人とは思えなくなるのではないだろうか。

Rawlins教授の調査によると、親しい友人は頼りになるのだ。友情は時間という投資をしないと育めない。時間を投資したことで、共有情報や経験という収益を得ることができるのだ。これにより、友人をより理解でき、友人の必要とするものや必要とすることを想定できるようになる。これは、技術に対しても同じことが言える。

フックモデルの4つ目で最後のステップは「投資(Investment)」だ。友情のように、時間が経つにつれサービスが改善されるだろうと期待する。あまりにも多くの製品が投資を求めない、あるいは報酬を与えない、あるいは、情報を集めてもその情報を必要に応じて展開することもないのだ。CUIはユーザーの投資を簡単で便利にしてくれる。

例えば、Panaという旅行サービスでは、CUIを使い込むほどにサービスの質が上がる(個人的なことではあるが、あまりにも素晴らしいサービスと感じたため、会社に投資してしまった)。Panaは、個人的な志向を記憶してくれる。例えば、飛行機内の座席の位置、航空会社のマイレージ番号や仕事で使用するクレジットカードなど、いろいろである。

従来のアプリやWebサイトでは、このような個人の志向は最初に聞かれ入力する例が多い。しかし、Panaは親しい友人のように必要に応じて情報を聞き、確実に記憶してくれる。同じことを繰り返し聞いたりしないのだ。これらの情報によってPanaには、他社とは異なる便利さがある。

Panaは、チケット入手の際ポイントを使用するべきか、そのまま購入するべきかまでも教えてくれる。また、先週San Francisco・Phoenix間の航空券を予約する際にTSAプレチェック番号の入力を忘れたことに気が付いた。航空会社に連絡して待たされ、担当者と長々と話す代わりに、Panaにテキストを送るだけで簡単に済ますことができた。

A quick message sent on Pana saved me the hassle of calling the airline.
注釈:Panaに簡単なテキストを送るだけで航空会社に連絡する手間が省ける

CUI+自分=永遠の大親友

AI botのAmyによって設定されたランチミーティングは、CUIで時間の節約ができるという1つの例である。Amyはあまりにも役に立ってくれるので、人間ではないにも関わらず、人間のように接してしまいそうになるほどだ。Amyや上述の例は始まりに過ぎない。これから先、CUIと友人のように接することで人々の生活はより便利になるだろう。

友人同士が互いに助け合う必要がある場合は当然でてくる。同じように、新しいテクノロジーで提供されるサービスもシンプルで便利な必要がある。Slackに勤めている友人のAmir Shevatによると、「どんなにbotやCUIが優れていても、最悪のサービスを補うものにはならない」のだそうだ。しかし、常用してもらえる製品になるための4ステップを駆使し、完璧に構築されたCUIは、ユーザーとテクノロジーをつなぐことができる。楽しい、頼りになる、そして話しやすいサービスを設計することで、初めて使っても操作に違和感のない製品を作ることができるのだ。

この記事はNir EyalとAlexis Safarikasの共著である。Nir Eyalは『Hooked: How to Build Habit-Forming Products』の著者であり、NirAndFar.comで製品心理をブログで掲載している。Alexis Safarikasは、Springokでデジタル戦略を担当している。