優れたビジネスデザインは目に見えない — IDEOの考え方

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IDEOビジネスデザイナー3名へのインタビューを通して、「優れたビジネスデザイン」について考える。


書き換え可能なタイルを使ってビジネスのモノとサービスの流れを視覚化

IDEOにビジネスデザイナーとして入社した当初、日々の職務で何をすべきかがわからなかった。まずはそれを理解しようと、経験を積んだ社内のビジネスデザイナーを何人か訪ねた。1人1人に話を聞くうちに驚いたことがある。それは与えられた課題にどのようなビジネスデザインを作り込んでいくかということに対し、誰もがそれぞれ自分なりの考えを持っていたことだ。しかし、1つだけ全員が同じ考えだったものがある。それは次の通りだ。

優れたビジネスデザインは目に見えない。

もし、ビジネスデザイナーになろうとか、ビジネスデザイナーと仕事をしようとか考えているのなら、それはおそらく、「目に見えないもの」の姿を探しているということだ。

最近、サンフランシスコにあるIDEOの拠点で3人のビジネスデザイナーに会い、直近の仕事で他のデザイナーとどのように共同で作業を進め、ビジネスデザインを作り込んでいったのかを話す機会があった。以下は、それぞれのデザイナーが考える「優れたビジネスデザイン」に関するインタビューだ。

1. 教育分野で革新を目指すMiki Heller氏


教育現場で教師と熱の入った議論を交わすMiki氏(中央)

Miki氏は航空宇宙工学を大学で学んだ後、Teach for Americaで講師、コンサルタントとして働き、大学入学志願者を指導するNPOを立ち上げた。

—— 小学3年生にビジネスデザインをどのように説明しますか?

新しいおもちゃが欲しい時があるわよね。そのおもちゃには、デザインを考えた人たちがいる。色とか、大きさとか、走る早さとか。遊びたいおもちゃの特長ね。でも、おもちゃを作るのには、他にもたくさん質問があって多くの人たちが答えを出している。親がどのくらい払うだろうか?どこのお店に並べるか?広告でどう言うべきか?どんな名前にするか?


(左から)制作にかかる時間は?
親が払える金額か?
どこにあるのか?

玩具メーカーにとっては、こういう質問がおもちゃを優れたビジネスに変える。ビジネスデザイナーはこれらの質問に答えていく。IDEOでわかったのは、もし玩具メーカーがこういう質問への答えを持たなければ、たとえ最高のおもちゃでも、店頭に並ぶことはないということよ。

—— 好きなデザインツールは?

オーケー、よく聞いて。Excelが大好き。Excelには隠れた機能がたくさんあって、限りなく大きな宝庫よ。使えば使うほど、得るものが大きくなる。デフォルトの設定のままだとクライアントやチームとの共有には良い手段とは言えないけど、独創性が得られ(フレキシブルに考えられて)、本当に魅力的なストーリーを語るツールになるわ。

—— あなたの仕事で一番大切なスキルは何ですか?

ユーザの問題に対して独創的なソリューションを求めると、往々にして答えがプロダクトやサービスという形に落ち着く。でも、私たちがクライアントに渡すのは — そして最終的にユーザーが体験するのは — ただポツンと存在するプロダクトやサービスではない。周囲にあるものすべても含まれる。私は周囲も含めてビジネスのデザインを考えることができる。ビジネスモデルに関わる仮説を全て分析し、再構築して新しい方法で価値を引き出すのよ。世の中に多くあるプロダクトやサービスの輝きはビジネスの中から生まれると私は信じている。教育分野の一線で仕事した経験があるので、自分のスタジオでは教育事業の深い専門的知識も動員しているわ。

—— では、直近のプロジェクトについて。デザインで取り組んだのは?

私たちのチームの仕事は、グローバルなプラットフォームを生み出して、教室で教える先生たちを支援することよ。

—— プロジェクトのビジネスデザインは?

多くのプロジェクトが最初のうちは、ある種の競争にこだわったデザインを設計し、同じ分野で他に誰がいるのかを知ろうとする。教育の分野はとてつもなく大きいのよ。私は自分のチームと一緒になって調べたわ。ひと通り調査を終えたら、競合する可能性のある組織と自分たちが進めているデザインと同じ趣旨の組織をリストアップした。それぞれの企業の情報を懸命に集めて分類し、私たちが使っている手段との違いを理解しようとしたの。

その後は時間制限を設けて作業ね。メンバー1人1人が企業を選び、15分でその企業をリサーチして宣伝文句を書き、グループで共有したの。これは全員が全体像を理解できる良い方法よ。

—— 一番驚いたことは?

私たちはこのプロジェクトの調査のために世界中を訪れた。私たちには教育現場が地域ごとに違っているという仮説があった。でも、実際に見たのは、教育の世界が変化の少ないものになってきているということだった。教師はヒントを求めてインターネットをどんどん使い、その結果、教育現場が非常に似通ったものになっているという感じ。インドの教師がYouTubeでイタリアの教師の動画を見てヒントを得ようとしているわ。

—— 素晴らしいと思う新しいプロダクトやビジネスは何ですか?

シェアリングエコノミーの一連の企業ね。あまり利用していないものを有効に使うビジネス(例えばUberAirbnbで、新たな収入源がもたらされる。優れたビジネスデザインとは、チャンスをはっきりと見いだすことができ、価値ある物を無駄にしないもののことよ。

2. スタジオの組織改編を支援してくれたCarl Fudge氏


フィードバックセッションのあとにデザインリサーチャーのPriti Rao氏から報告を受けるCarl氏

かつて戦略コンサルタントだったCarlはプロジェクトをリードし、特にテクノロジとファイナンスに熱心に取り組んでいる。

—— 他のデザイナーに、どのようにビジネスデザインを説明しますか?

ビジネスデザインでは、ビジネスをデザインのように美しいものにすることに注力します。我々のクライアントは常に何かしらのビジネス上の判断をしている。その判断とは例えば、誰が使うのか?どのように売るのか?クライアントに利益が出るか?ここでこのアイデアが他のソリューションと違うのは何か?というようなことです。

—— 最近のプロジェクトについて教えてください。デザインで取り組んだのは?

自らのプロダクトを今まで利用してこなかったミレニアル世代を、ファイナンシャル・サービスのクライアントと一緒に、引き付けようとしたことです。

—— そのプロジェクトに特有のビジネスデザインに関する活動について、例を挙げてください。

我々のチームでは、クライアントがミレニアル世代に向けて試行するための3つの異なるコンセプトを考えました。コンセプトはそれぞれ、自分たちで行った調査を基にし、ターゲットとなるユーザーと専門家が直接話した内容も含みます。また、その分野で我々がすでに知っていることを基にして、ユーザーに対して何が有効だったのか、フィールドの調査結果に基づいていないものは何かを見極めながら、競合他社のプロダクトや純粋にインスピレーションを与えるだけのプロダクトも試しました。その後、それぞれのコンセプトに対し「ピッチデッキ」を作成しました。それには、市場規模の推定や市場細分化、そして予測収入を含んでいます。


支払いについてのディスカッション

—— そのプロジェクトで、一番驚いたことは?

ファイナンスのような非常に個人的なトピックの場合は、信頼してもらえるプロダクトを作ることが重要だということです。それは信頼できる友人のような感情を持てるプロダクトなのです。

—— IDEO以外で、素晴らしいと思う新しいプロダクトやビジネスは何ですか?

Bettermentは素晴らしいですね。親しみやすい上に良心的な価格で使い易いオンラインのユーザエクスペリエンスをまとめ上げている。これは皆にお勧めしたい。もしまだ使っていないなら是非使ってみるべきです。

3. スタートアップのデザインに注力するVaughn Baker氏


ユーザに対するインコンテキスト・リサーチのセッションに向けて準備を進めるVaughn氏

Vaughn氏は以前Bank of Americaに勤め、クラウドファンディングの資金調達をするスタートアップを立ち上げた。

—— あなたの祖母にビジネスデザインを説明するとしたら、どのように説明しますか?

僕の仕事は翻訳者の仕事に非常に似ています。ただし、言語の翻訳ではなく、ビジネスコンセプトの翻訳ですね。例えば僕が価格決定モデルのコンセプトに詳しいとして、そのコンセプトが、今チームが議論しているアイデアにピッタリと当てはまるとしましょう。その場合、僕は、チームがデザインコンセプトに価格決定モデルのコンセプトを応用できるように、価格決定モデルについて十分な説明をして教えるという仕事をするのです。

—— 好きなデザインツールは?

予測分析ソフトウェアのSPSSです。人々の発言と行動の違いを識別するのに効果的なツールです。

—— ご自分の仕事において、最も価値のあるスキルは何だと思いますか?

筋の通った話を伝えることです。僕はよく抽象的なコンセプトの関係性をチームに伝える機会があります。その時に最も有効な方法は、そのコンセプトに関して世の中に実際に存在する話を具体的に示しながら説明することです。


偽物のお金を使い、プロダクトの機能について何が求められているのかを視覚化しているところ

—— 最近のプロジェクトについて教えてください。デザインで取り組んだのは?

ターゲット市場に適したサービスとビジネスモデルの提供を検討するスタートアップを支援しました。

—— ビジネスデザインの観点から何かありましたか?

調査で得た考察を検証できるコンセプトに落とし込む段階で、チームのグラフィックデザイナーがコンセプトの概略を書き、僕の方はそれぞれのコンセプトに価格モデルをデザインしました。こうすれば、僕たちのアイデアをターゲットのユーザーに見せて、彼らからフィードバックをもらう場合に、彼らが僕たちの売ろうとしているものにどんな反応をするかということに加えて、何に対して喜んでお金を支払うかという反応が分かります。

—— 一番驚いたことは?

最初のプロジェクトで嬉しい驚きがありました。単にプロジェクトに参加してファイナンシャルモデルを作るだけではなかったのです。僕の仕事は、様々なビジネスツールやフレームワークをチームに紹介していき、チームの一員としてそれらのツールやフレームワークが自分たちのコンテキストに合うかどうかを決めること以上のものだと気付いたのです。

—— 素晴らしいと思う新しいプロダクトやビジネスは何ですか?

Codecademyですね。誰もが遠ざけてしまうコーディングを上手にゲーム化しています。

優れたビジネスデザインとは

ビジネスデザインの定義は1つに定まらないし、アプローチの方法も1つではない。しかし、この「目に見えない」タペストリーを組み上げている、全てに通ずる糸は確かに存在する。

優れたビジネスデザインとは、素晴らしいエンド・ツー・エンドのユーザエクスペリエンスを提供するために、他のデザイナーたちとコラボするようなデザインだ。それは、ユーザーやクライアントのために問題を解決することでもある。

優れたビジネスデザインとは、プロジェクト全体を通じて色々な方法で適用できるものだ。競争が激しいユーザエクスペリエンスの分析を指揮するところから始まり、初期段階で価格決定の試行を行い、中間の段階で労力のかかるファイナンシャルケースを最後のコンセプトに組み込むまで、適用できる。

優れたビジネスデザインが目に見えないのは、ビジネスの経営のやり方、ユーザーがビジネスに関与するやり方、チームがビジネスを理解するやり方が複雑に絡んでいる上に、とてもシンプルでものごとがまともに動いているからだ。ビジネスとユーザーのために。


イラスト: Ina Xi

Thanks to Misa Misono and clark scheffy