「思い込み」でサービスをつくることは必ずしも悪いわけではない

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UX Tokyo 主宰
HCD-Net 認定 人間中心設計専門家
Medium Japan 代表

但し、
・ 「思い込み」であることを自覚すること
・ 「思い込み」は実証されるべきであること
が前提として成立すると思っています。

サービス開発における2つのアプローチ

弊社コンセントのラボにも掲載されている「カスタマージャーニーマップのパターン」でも解説していますが、カスタマージャーニーマップ、つまりは顧客の体験や感覚を可視化するサービスデザインの手法のひとつとして企業が組織として顧客視点/ユーザー視点を維持し、サービス開発を支援するツールには2つの視点が存在します。

一つ目の軸は、Inside-out/Outside-inの視点。
Inside/Outsideとは事業者からの視点として、「自社事業の観点から=Inside-out」と、「自社事業の外側の観点=Outside-in」となる。ここではサービス事業者の観点となるから、Outside-inは、サービス利用者の観点となる。
自社事業観点のCJMとは、「サービスがどのように利用されるか」を示したものとなる。
CJMの特徴として、顧客の体験や感情などが記されることがあるが、Inside-out型のCJMでは、そのサービスでも顧客はどう感じているのかを把握することができる。
カスタマージャーニーマップのパターン | ラボ | 株式会社コンセント

よってサービス開発はインサイドアウト(Inside-out)またはアウトサイトイン(Outside-in)のいずれかから始まると考えることができます。

多くの場合は前者で進行することが多いのではないでしょうか。著者が担当している新サービス開発支援プロジェクトでも多くがインサイドアウトのアプローチを実践しています。ところが、自社事業の観点からサービスを開発するもアウト(顧客)との Problem-Solution Fit(課題と解決策のマッチング)が成立しなければ意味がありません。後ほど詳しく述べたいと思います。

後者はオープンイノベーションとして位置付けられているプロジェクトに多く見られます。IDEO が展開している IDEO.org もその一例です。国内では NEC やパナソニックが関連特許を無償化し、アウトサイドインのアプローチを推進しています。

デザインとアート: アウトサイドインとインサイドアウト

デザイン的活動を「問題解決」と表現することがあります。顧客が潜在的に抱えている課題を特定し、解決手段を模索する行為は問題解決そのものであり、デザイン思考のルーツもロジカルシンキングに習っていると言われています。

問いを見つけることと問いに応えることがデザインの役割であるならば、アートは問いを問うことであると考えます。一見対極にあるように見える両者ですが、必ずしもそうではありません。デザインはもはや現代社会における決定的な差別化要因ではないと話すジョン・マエダ氏はデザインとアートの関係性を以下のように捉えています。

デザイナーが生み出すのが「解決策(答え)」であるのに対し、アーティストが生み出すのは「問いかけ」である。(中略)いま彼らー顧客ーが求めているのは、自分の価値観を思い出させてくれるような方法ーーつまり、この世界のなかでどのように生きることが出来るか、どう生きるつもりか、どう生きるべきかという価値観を思い出させてくれるものである。
ジョン・マエダの考える「デザインを超えるもの」 « WIRED.jp

当ブログでも何度も言及している人間中心設計(Human Centered Design)ないしはユーザエクスペリエンス・デザインは「解決策(答え)」を導くアウトサイドインのアプローチ/設計思想です。

ところが、それだけでは差別化が図りにくく、誰もが同じ答えに辿り着いてしまう可能性があり、納得が行く解決策(答え)に至らないケースが多々あります。エンドユーザーからの価値や洞察の抽出には限界があり、答えにつながるエッセンスをすべて彼らに委ねることはほぼ不可能です。車が無かった時代に要求事項を探っても、車の開発に直結する解決策は導くことはできません。

著者が担当するプロジェクトでもイノベーティブなアイディやないしは製品の開発支援を求めるクライアントが多く、アウトサイドイン「のみ」のデザイン・アプローチでは期待に100%応えることが難しい場合があります。一方で、思い込みや仮説から立案された新規事業の開発支援では、未実証の項目が多いもインサイドアウト、問いを問うアートの設計思想に従って進めることができます。

これまでは著者含め多くのユーザエクスペリエンス・デザイナーは未実証項目ドリブンでコトが進むことに違和感を覚え、反抗する姿勢を見せていました。思い込みだけで設計や開発を進めることに嫌気が差し、ユーザー調査などのリサーチありきでやるべきである、先ずはユーザーに聞いてみましょう、などどいったブレーキをかけていました。

アウトサイドイン型である Problem-Solution Fit(課題と解決策のマッチング)のアプローチを批判しているわけではなく、イノベーションを促進し、差別化を図っていく上では製品開発よりも顧客開発が有効です。プロダクトやサービスは、何をつくるべきかを教えてくれるものでなければなりません。プロダクトやサービスは、そのためのひとつの手段であり、デザインもひとつの手段だと考えています。

アーティスト的思考のスペキュレーティブ・デザイン

スペキュレーティブ・デザインとは、空論の、未来のシナリオをデザインするための考え方です。既存の価値や信念、態度を疑い、様々な代替の可能性を提示するためのコンセプトとして注目を浴びています。


Speculative Everything: Design, Fiction, and Social Dreaming
作者: Anthony Dunne,Fiona Raby
出版社/メーカー: The MIT Press
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例えば、スマートフォンなしの生活は考えられないと思いますが、逆に保持することで大切な喜びをもたらしてくれているでしょうか?そもそもスマートフォンにはどんな価値が存在し、その価値はどのようにして取り戻せられるのかを考え、思想や思い込みを作品としてないしは製品として提示する。正に問いを問うアーティストのような発想がスペキュレーティブ・デザインと言われています。

問いかけは思い込みがあってこそ成立すると思っています。もっと言えば思い込みがなければ未来のシナリオをデザインすることができないのではないでしょうか。アップルのスティーブ・ジョブスはデザインの心得を大切にしていたことで有名ですが、その斬新な発想と彼なりのビジョン、思い込みはアーティストそのものでした。

アウトサイドインのデザインアプローチが Problem-Solution Fit(課題と解決策のマッチング)であるならば、インサイドアウト型であるスペキュレーティブ・デザインのアプローチは Vison-Customer Fit(ビジョンと顧客のマッチング)と言えるかもしれません。

結果、これからのデザイナーにはアーティストとしての要素が求められているのではないでしょうか。

まとめ

冒頭に戻りますが、思い込みでサービスをつくることは必ずしも悪いわけではありません。インサイドアウトのアプローチですべてのサービスがつくられるべき、というわけではありません。

一番のリスクは思い込みだと自覚せず、ファクト(事実)として錯覚してしまうことです。そして、例え自覚していても実証せずに思い込みのままで終わってしまうことです。

実証には事前であれ事後であれ、アウトサイドイン(Problem-Solution Fit)のアプローチを採用すべきであり、著者含むユーザエクスペリエンス設計業務を担当する人は思い込みが発生した時点で「待った!」のブレーキをかけずに実現を構想に落とすための手段を考えるべきだと思います。「待った!」と思い立つこともひとつの思い込みであるという自覚が必要です。

・ 思い込みはなにか?
・ ファクト(事実)はどれか?
・ アイディアはなにか?

この軸で情報を整理し、製品を介した顧客の価値創出という名の顧客開発をどのように進めていくべきか?

これが今正に求められているデザインの役割なのではないでしょうか。