「自然なUX」が没入感を生む — AWA Product Manager & Interactive Animator 冨樫晃己氏インタビュー

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一見エッジの効いたインターフェイスを持つAWA。
その裏にはとことん自然さを追求する「ギャップレス」というUXの考え方があった。

AWAの本質的価値とは

—— AWAとはどの様なサービスですか?

冨樫 “音楽との出会い”。これが、AWAの本質的価値です。その提供手段として、ユーザー自身が作るオリジナルなプレイリストを公開できるようにしています。それを独自のロジックで、とあるユーザーの画面にそのユーザーの趣味、趣向にあった「あなただけにおすすめのプレイリスト」としてシステム的にレコメンドするのですが、リストの中には自分の知らない曲もあり、新しい音楽との出会いを体験してもらうことができるんです。

—— 音楽との出会いを提供するプロダクトはほかにもありますが、ユーザーに支持されている優位性はどこにあるのでしょう。

冨樫 私たちが目指したのは、高級なブディックではなく、雑貨店に近いセレクトショップで、いろいろなテイストを楽しめる感じです。さらに、そこに人肌感をのせています。リコメンドするだけのアプリでは飽きがきますが、AWAはバックグラウンドに人の存在を感じられる。この人は、なんでこの選曲にしたんだろうと考える時間さえも楽しんでいただけます。

ユーザーとしての実体験こそが意思決定プロセス

—— そのような特徴はどの様に決めていったのでしょう。検証などしたのでしょうか。

冨樫 AWAでは毎日夕会があり、その日にAWAを使って感じた「○○は楽しくないけど、○○って楽しいよね?」といった感覚をいちユーザーとして共有し合うことで、あり方を決めています。
かなり議論が白熱することもあるのですが「こんなに面白い世界観はシステムからのレコメンドや特定の人のプレイリストだけでは表現できない」と盛り上がったんです。音楽は、一人ひとり独特の世界観を持っています。それだけに世界観が一致すると楽しいドメインでもある。そこからAWAのプレイリストはある特定のプレイリストから提供するものでなく、ユーザーが作成したプレイリストを主軸にしようというのが決まりました。

—— ユーザーとしての実体験が効いているのですね。そういった視点があるからでしょうか。聴く楽しさにくわえ、プレイリストを創作する楽しさも価値として加えられていると感じます。

冨樫 そうなんです。DJって、他人の楽曲を使って創作しているという見方もできますが、職業として立派に成り立っていますよね。それと同じで、試行錯誤してリストを創る過程でアーティストになる体験ができるんです。自分の創ったリストを再生してもらったら、単純に嬉しいですよね。誰かにお気に入りに追加されたら通知でお知らせしたり、よく再生されたり、よくお気に入りに追加される人は人気チャートに表示することで、創作の楽しみを体感してもらっています。再生数やお気に入り数が、自分に対する共感値とイコール。毎日公開してくれるユーザーもいるほどです。

—— ユーザーが本当に楽しんでいるのがわかりますね。でも、開発段階でユーザーがプレイリストを創ってくれるという確信はあったのでしょうか。

冨樫 音楽という領域に対して自己顕示欲の強いユーザーは絶対にいるという確信はありました。一方で、その数がどれだけ見込めるのかはわかりません。それでβテストを社内や業界関係者で計2ヶ月間実施してみたところ、それほど音楽に対する自己顕示欲が高くない人でも楽しめるという実感を得られたので、そこから確信が生まれました。

—— インターフェイスの部分は、モックをたくさんつくったのでしょうか。

冨樫 たくさんつくりました、数え切れないほど。そのプロセスでボツになった機能もたくさんあります。これ、どうかな?と思ったら、チームで共有。モックをつくって、これがいい!となったものを仕様に落とし込んで開発していきました。社内でアプリを共有するツールがあり、いつでも皆で見られる状態にしてあるんです。

—— なるほど。では、インターフェイスとしては、もう完成系でしょうか?

冨樫 いえいえ、まだまだです。ひとつ改善すると、ほかの箇所に不整合がでてきたり。ジレンマがありますね。

—— わかります。開発にあたり、参考にしたアプリを教えてください。

冨樫 facebookの『paper』は参考にしました。海外のアプリをよくチェックしていますが、このアプリはすごく考えられていると感じます。たとえば、チュートリアルを強制しない点。放置していると消えるし、チュートリアルが終わると、ちゃんとフィードバックがあり、クリアしたことがしっかりと体験として伝えられていたり、自然なインタラクションや階層構造の設計も徹底していると感じます。

—— その他、普段気にかけていたり、チェックしているサイトなどはありますか?

冨樫 アメリカとイギリスのApp Storeのランキングや、おすすめはチェックしています。それと、海外にInteraction Awardsというのがあり、動向をチェックしています。ほかにも、capptivate.coというサイトはいいですね。面白いアニメーションが取り上げられているんですよ。こういったものから表現方法を学んで、AWA流に仕上げた上で、さらにそこから取り入れるかどうかの判断をしています。

—— 日々、ご自身をアップグレードしているんですね。その集大成といえるAWAは、ものすごい成長を遂げていますよね。いま600万ダウンロードを超えたと聞きました。AWAの成功を受けて、巨大プレイヤーも参戦してくると思いますが、どう戦いますか。

冨樫 やることは大きく変わらないと感じています。いちばん大事な、ユーザーのパーソナルを活かすという観点で磨きこんでいきます。それと、再生数が累計18億ということで、このデータを有効活用していきたいですね。

より自然なUXが没入感を生む

—— では、UXという観点ではいかがでしょう。注力しているポイントを教えてください。

冨樫 私たちの哲学としては、「現実世界とのギャップをなくす」ことにつきると思っています。たとえばAWAアプリのHome画面では5つの画面が横に広がっている世界観なのですが、スクロールすると後ろの世界がずれながら動いていくんです。視点を動かしたとき、近くにあるものは距離が近いので大きく動くのですが、遠くのものはそれほどでもない。背景はあまり動かない。

—— 自然な状態にしていくということでしょうか。

冨樫 現実世界に近い、より自然な、物理的な動きにしていくということです。音楽って、情景と密接に関係があると思うんです。例えば、同じ曲でも深夜に一人でお酒を飲みながら聴くのと、友達と海辺をドライブしながら聴くのとでは、その曲に対する感じ方が変わりますよね。青春時代によく聴いていた曲を聴くとそのときの思い出が映像と一緒に思い浮かぶ。音楽は環境ごと楽しむと言っても過言ではないんです。アプリもそれと同じ“音楽を聴く環境”なので、そこに現実世界とのギャップがあると、それだけで没入感が薄まってしまうと思うんです。そして最終的には所有感を大事にしていて。このアプリ使ってる、イコール、オシャレな空間で聴いてる俺カッコイイ、みたいな。

—— なるほど。AWAには独特の世界観がありますよね。自然を意識した結果、独特の世界観が生まれ、それが没入感にも繋がっている、というのが面白いです。

なんかイイ!ぐらいの体験が丁度いい

冨樫 没入感でいうと、ユーザーが操作できない時間についても気を使っています。たとえばUIにアニメーションが含まれていると、アニメーションが終わるまでユーザーは操作できないですよね。カッコイイとかスゴイ! といったアニメーションもいいのですが、それはAWAの本質的価値ではないんです。そこでAWAではインタラクティブなアニメーションにしています。具体的には画面の左端からスワイプすると前のページに戻りますが、そのスワイプの速度によって、アニメーションの速度も追随するんです。つまり早く閉じたい人は、閉じれるようにできています。

—— 確かに、これはすごいですね。機能性と自然さが融合しています。

冨樫 他にはロード中にインジケータが画面中央でクルクル回る様な表現がありますが、これが表示されたらユーザーは「操作できないんだ」と感じると思います。しかしAWAではロード中でも操作できるようにしているので、この表現だとストレスを与えてしまうことになる。そこでロード中はタイトルがキラキラするといったプラスの印象を得られる表現に変え、操作できないという固定観念によるストレスを排除する工夫をしています。仔細に見える挙動にも気を使っています。AWAの本質的な価値を音楽との出会いとしたとき、視聴体験を邪魔するものを排除していくことが重要です。かっこいいという概念さえも邪魔なファクトだと思っています。

—— とても本質的なお話ですね。作り手であれば、エッジの効いたUXデザインを追求したくなるとものだと思うのですが。

冨樫 それはそれで大切だとは思っています。でも、作り手のエゴを押しつけても意味がない。これは新しい技術だとユーザーが感じている時点で、それは自然ではない。そこに頭が介在していることになりますよね。直感的じゃない。なんかわからないけど「イイ!」ぐらいにしたいんです。それが現実世界ではありえない動きを排除した“ギャップレス”というテーマにつながっています。

—— なるほど、すべての点が線で繋がった気がします。一方でインタラクションの作り込みは相当の工数を要するので疑問視する声もありますが、「音楽体験を邪魔しない」というキーワードをチームで共有しているからこそ、徹底的にこだわる理由があるのですね。

冨樫 そうですね。自然さや没入感とも結びついてきます。

—— そうした哲学を込めたAWAが目指すものを伺えますか。

冨樫 AWAがあれば、音楽に関しては充分という世界観を目指したいですね。曲数はもちろん、あらゆる場所で、状況を選ばずに音楽と出会えるくらいのスケールを目指したいと思っています。それと、AWAで楽曲を聴いていると、自分自身もかっこいいと感じられるような世界観を追求したいですね。

—— 最後に、冨樫さんにとってUXとは。

冨樫 ユーザーとの非言語コミュニケーション。私たち開発者が、ユーザーと唯一コミュニケーションできる部分。一人ひとりのユーザーに対面で説明できたら話は早いけど、それはできない。だからこそ、UXが重要。ユーザーの操作に対し、どう感じるんだろうと思いをはせる。そこから目をそらさずに、考え続けていきたいですね。

冨樫晃己 | KOKI TOGASHI
AWA Co.Ltd. Product Manager & Interactive Animator

学生アルバイトとして「パシャオク」に携わったのち、2013年サイバーエージェントに入社。音楽が好きで、新規事業提案制度で音楽関連のビジネスを起案していたこともあり、AWAの構想を知ったときは「これだ!」と迷うことなくジョインしたという。学生時代に自分でアプリを立ち上げた経験を活かし、サーバーサイドエンジニアにはじまり、ネイティブアプリエンジニア、デザインまわりの設計、インタラクティブアニメーションの開発などポジションを変遷し、最終的に全体設計を行うプロダクトマネージャーを務めた。