データに踊らされないようにするためのデザインアプローチ

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実は抽象的なデータを分かりやすく視覚化するのがデザイナーの役割のひとつですし、視覚化して共有することで、ようやく問題解決の土台が作られたといえます。

11月28日に MTDDC Meetup Tokyo 2015 が開催されました。Movable Type に関わるセッションだけでなく、特定の CMS に囚われないディレクションやサイト設計・運用の話もありました。昨年もそうでしたが、WordPressDrupal といった他 CMS のコミュニティメンバーを交えた座談会もあるのも MTDDC の魅力です。

今回は「データと上手に付き合ってデザインする方法」と題して、クリエイティブとデータを繋げるための考え方や手法を紹介しました。

数字が嘘をつくこともある

近年、すべてを数値化して測定・評価しましょうという動きがあります。本サイトでもデータの重要性を伝え続けていますが、行き過ぎたアプリーチになることもあります。様々な利用者情報を低コストで取得できるようになり、データ分析がより身近になったことは素晴らしいことです。しかし、デザインの決定をデータに任せてしまうのは危険な傾向だと思います。

データ、特に数値は理解がしやすいだけでなく、説得力が高いものです。しかし、数値だからといって利用者体験の絶対的な事実を述べているわけではありません。見方を誤ると、間違った方向へデザインが進んでしまうだけでなく、利用者体験ではなく数値を上げることが目標になってしまうこともあります。

例えば Medium では、読了率という指標が見れるようになっていますが、これにしても下へスクロールした割合を示しているだけです。それだけで本当に読んだかどうか判断するのは軽率ですし、指標の『仕組み』さえ理解してしまえば、指標を上げるための細工をすることができます。下へスクロールするようなコンテンツの組み方や見せ方に変えるだけで、読んだか読んでないか関係なく割合を上げることができます。

他にもページビューといった指標にしても、見方を誤ると数字を稼いでているだけで、サービスや製品の価値を提供しない施策になることがあります。データの上がり下がりをゲーム感覚で見てしまうと、その先にいる利用者の動機や行動がボヤけてしまい、デザインはデータで決めれば良いという最悪の結果になる可能性もあります。

その昔 Google が、どの青が最もクリックされるのかを決めるために 41 種類の青をテストした というエピソードがありました。これは、デザインの答えをデータに求めてしまう極端な例です。しかし、今の Google はそういったデータに頼りきった極端なアプローチを止めています。 Material Design をはじめ、ブランドイメージを考慮したデザインガイドラインを制定して、ガイドラインを守りながらデータをつかってデザインの価値を増幅させています。

私たちも昔 Google がやっていたような、すべての判断をデータに委ねるといったことは避けなければいけません。

点ではなく線で見ること

ページビュー、離脱率、滞在時間といった指標は見なくて良いというわけではありません。しかし、これらの指標は利用者体験の改善を考える上では不十分かつ誤解が生みやすいものです。私はこれらの指標を、利用者行動の『点』と呼んでいます。

検索をして Web サイトの製品ページにたどり着いて、情報を吟味した結果、ショッピングカートに入れてチェックアウトしたという一連の行動があるとしたら、ページビューや離脱といった指標は、その中のほんの一瞬の行動を指していることになります。人の行動は『点』ではなく、『線』で考えるべきです。私たちデザイナーの仕事は、解析ツールで収集された『点』から、利用者行動という『線』を導き出すことだと思います。


データで見える点から線を導く

デザイナーが Google Analytics のようなツールを活用するのであれば、ページビューや参照サイトの表を見るのではなく、行動フロー目標達成プロセスといった、利用者行動という『線』を視覚化してくれる機能を重点的に見ることをオススメします。

離脱数・離脱率という指標だけを見ると分かり難いことでも、利用者がどのような行動をとって離脱したのかまで理解できれば、離脱した仮説が立てやすくなります。データから導き出された仮説を基にデザインすることもできますし、ユーザーインタビューやユーザーテストの際の課題になる場合もあります。

線を共有するプロセス

クリエイティブとデータは相反する関係ではなく、相互関係にあるものです。Web 解析をはじめ、インタビューや市場調査などから集めたデータから、人間像を導き出す行為は、デザインにおいて必須のプロセスです。今は費用対効果や満足度まですべてを数値化しようという動きがありますが、そこにデザイン思考がもっと入ることで偏りを緩和させる必要があると思います。

デザイナーが中心になり、利用者の点ではなく線を見るように手段としてカスタマージャーニーマップは有効ですが、それだけではありません。今回のセッションでは、人間中心設計(User Centered Design)とはまた別のアプローチとして作業中心設計(Job Centered Design)を提案しました。

これは、ハーバード・ビジネス・スクール のクレイトン・クリステンセン教授が提示している「Job-to-be-done フレームワーク」を参考にしたものです。製品やサービスがなぜ必要とされているのかを深堀することで、利用者の動機やビジネスの目的が明確になるというもの。利用者が何を求めているのかではなく、なぜ求めているのかを知ることで本質的な改善に繋がることがあります。


フレームワークを利用して付箋紙に書き込むときの例

もちろん、こうした考えは他のデザイン手法を用いて共有するこは可能です。Job-to-be-done フレームワークは、利用者の動機から具体的に何をするべきなのかまでの関係性を表現しやすいのが強みだと思います。利用者の意図を時系列だけでは追い求めるのが難しい場合は有効です。

まとめ

データという定量調査から導き出されたものと、インタビューや観察といった定性調査で集めたものを組み合わせるわけですが、そのとき膨大な情報をドッと見て理解できる人はほんのわずかです。それを分かりやすく視覚化するのがデザイナーの役割のひとつですし、視覚化して共有することで、ようやく問題解決の土台が作られたといえます。

幸いデザインの世界には、そうした利用者の動機や意図を視覚化するための手法が数多く存在します。自分たちにとって都合の良い人間像を作り出すために共有するための手法があるのではなく、利用者の現在を共有するためにあります。そのためにデータは欠かせませんし、データを基に導き出された『仮説』だからこそ、そこからどうデータと付き合えば良いかも理解しやすくなるでしょう。