サイドプロジェクトで始めるスタートアップ

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1つの事に専念するより、複数の事を同時に行う方が肌に合っている彼らが、シリコンバレーではなくセントルイスを選んだ理由とは。

Crewでは、複数の事を同時に行うことを大いに奨励している。

現実には、マルチタスクはできないと科学的にいわれている。しかし意欲的に複数のプロジェクトを同時に進めることは創造力を高め、思考を向上させるとても素晴らしい方法だ。あるプロジェクトに取り組んでいる間も、心の中では無意識に別のプロジェクトを意識し、それは双方のプロジェクトを結び付け、良い形でアウトプットする事を助ける。

著名なデザイナーのDann Petty氏は次のように言っている。

同時に複数のプロジェクトに取り組んでいる時こそ、いい仕事ができる。それぞれのプロジェクトが何かしらの形で関連することに私は気付いたのだ。ナビゲーションや難しい概念の問題など、全て一度に片付けることができる。 ― Dann Petty

これは会社を経営する上での「1つの事に集中すればうまくいく」という提言を覆すわけではない。しかし時代は変化し、実際に注目を集めるためには、いくつかのプロダクトを世に出し、ずば抜けた価値を提供する必要がある。

その様な中で、Need/Wantという企業が独自の製品エコシステムを構築する事で複数プロジェクトのアイデアを実現している。Marshall HaasJon WheatleyDavid Myersの3人で構成されるチームだ。彼らはここ数年、ベストセラーとなったiPhoneケースや、世界初のスマートベッドクラウドノートブックなど、その他多くのプロダクトを発表している。

表面上はこれらのプロダクトには一貫性が無いように思われる。実際のモノとして存在するもの、デジタル上に存在するもの、それら両方の混ざったものもいくつか存在する。しかし注意深く掘り下げて見てみると、どのNeed/Wantのリリースにも一貫性があることが分かる。それは、これまでで最もよく考え抜かれており、良心的で、思いやりにあふれるデザインだということだ。

私たちは、Need/Wantのデザイン室長(そしてデザインスタジオFrudaの責任者でもある)David Myers氏と対面し、彼らのビジネス・モデルや、小さなチームでも同時にたくさんのプロジェクトを実行すること、シリコンバレーからセントルイスへ移転する意味、クリエイティブな多様性を受け入れることの重要性などについて伺うことができた。


複数のビジネスを同時に成功させるためにやったこと


Need/Want デザイン室長 David Myers

—— あなたはかなり早い段階でエンジニアリングとデザインを始めていますね。もともとあなたをその世界に引き寄せたものは何だったのですか?

始めたのは12歳ぐらいなので、間違いなく早かったね!

当時私はあるコミュニティを見つけ、そこに居着いていた。それは小さいコミュニティだったけど、ウェブサイトを作るのに夢中になっている子供達のコミュニティで、Need/Wantの共同創業者の1人であるJonともそこで出会ったんだ。その後、高校、大学を通じて私たちのグループは、一緒にプロジェクトに取り組んできた。誰かが私にデザインを頼んだり、逆に私が誰かにコードを頼んだり。作った物を売ったり、お互いを売り込んだりすることもあった。

そこからJonはサンフランシスコに飛び資金調達して、ついにDailyboothという会社を起業した。私はデザインを手伝うためそこに移動し、数年間一緒に仕事をしていた。実際私たちの、つまりNeed/Wantの共同創業者である私やJon、Marshallの経歴はこのデジタルスタートアップから始まっている。だから今やってる実際に物がある、リアルのプロダクトの仕事は、私たちにとってかなり新しい取り組みなんだ。

—— ではIT系のスタートアップから、これら実際に物があるプロダクトを作ることになった経緯を話してくれませんか。

DailyBoothがAirBnBに買収された後、Lockitronと呼ばれるインターネット接続されたドアロック、つまりスマートロックをデザインするために、私は会社を移籍したんだ。これは、私にとってハードウェアおよびソフトウェアでの最初の挑戦だったよ。

同じ頃、Jonは最も小さいiPhoneケース「Peel」に取り組んでいて、Marshallはまた別のリアルプロダクトである「SmartBedding」に取り組んでいた。Marshallが最初にTwitterでJonに連絡を取り、2人は協力体制を開始。私はNeed/Wantの立ち上げ時、リモートでデザインを手伝っていて、その1年後、私はセントルイスに移動し共同創業者として参加した。

創業までの時系列は複雑怪奇だったね。子供のころにインターネットで出会い、その後JonはMarshallと出会い、最終的に私たちは一緒に働くことになったんだ。

—— そんな風に全てが集まったのは思いがけない偶然ですね。しかしその事が、様々なブランドとプロダクトを持つNeed/Wantのビジネスモデルに反映されている様に見えます。

Need/Wantが面白いのは、私たち3人みんなが子どもの頃から、様々なプロジェクトに関わるのを当然だと思っているという点。

The Peel minimalist iPhone case
ミニマルなiPhoneケース「Peel」

私が初めてサンフランシスコに移って、あるスタートアップの中に入り込んだ時、それは長期間それだけに集中する、という全くの別世界だった。それまでは複数のプロジェクトを飛び回りつつ、あるプロジェクトで得たアイデアをまた違うプロジェクトへ適用するのが普通だったからだ。Need/Wantモデルのほうが自分には合っているし、自分の強みを引き出すやり方でもあるんだ。

—— Crewではよくサイドプロジェクトの話をし、常にいくつかのことを同時進行しています。それによってより自分は仕事に集中できると考えています。なぜなら1つのことに取り組んでいる時、無意識下ではなお、他のプロジェクトについても考えますから。

分かるよ、私の思っていることと100%同じだ。簡単な例で言えば「この決済フローはPeelにピッタリじゃないかな。まずはSmart Beddingで試してみよう」という感じだよね。それに、新しいプロダクトをデザインする時のプロセスを、より深められると思わないかい?

私たちの役割を大まかに分けると、私はほとんどクリエイティブ、Marshallはビジネスサイド、Jonはプロダクトのアイデアに注力している。どういうことかと言うと、小さな企業なのでそれぞれ重なり合う部分がたくさんあるということ。

アイデアの種を潰さない為に、どのようなアイデアも受け入れられる様な環境を保つようにしているよ。

—— 実験が許されるカルチャーをどうやって守っているのですか?

私たちはこのプロセスを「ラバー・ダッキー(おもちゃのアヒル的な)」と呼んでる。元々エンジニア界隈でおもちゃのアヒルに説明するつもりでデバッグ作業を進めるとよい、という、ラバーダックデバッギングというのがあって、その用語を拝借したもの。一般に「ラバー・ダッキー」と言えば、悪いアイデアを指すことが多いようだけど、そう決め付けて捨ててしまう前にちょっと考えてみるんだ。

ここで大事なのは「Yes」という事。もちろん最初に出たアイデアがベストとは限らない。しかしそこで話を終わらせてしまっては、その後生まれる会話や、さらにそこから素晴らしい物が生まれる可能性を閉ざしてしまう。だから私たちはいつもオープンマインドでいようと心がけているんだ。

—— Emoji Masks(顔文字風のマスク)はラバー・ダッキーから生まれたアイデアですか?

(笑)Emoji Masks? それは私がセントルイスに行くちょっと前のプロジェクトだけれど、JonとMarshallはあれは正真正銘のサイドプロジェクトだった、と言うだろうね。ハロウィンのために考えた楽しい実験で、ローンチ前にほとんどつぶれるところだったんだ。立ち上げの時には、何の期待もないサイドプロジェクトでしかなかったけど、一気にブームが起きて、メディアでも大きく取り上げられたね。

'Emoji Masks' – one of Need/Want's side projects
Emoji Masks ― Need/Wantのサイドプロジェクトの1つ

—— 実際にプロダクトを作る時に、決まったプロセスはありますか? まず何から始めますか。

インダストリアルデザインの経歴を持つメンバーはいないので「カッコ良いとは何か」「カッコ悪いとは何か」「どの素材を使いたいか」という非常にザックリとしたコンセプトを作る。それから、そのアイデアに磨きをかけてくれると思われる人たちとコラボレーションする。

例えばノートを作るのであれば、ノートメーカー業界の専門家と話をする。そしてストーリーを作り上げ、アイデアを洗練されたものにしていく。Webサイトの構築やプロダクトエクスペリエンスの作成を始めたら「私たちはなぜそれを作るのか」「どのような問題を解決しようとしているのか」「他の競合と比べて私たちのプロダクトがより良い点、異なっている点は何か」を書き出す。

—— あなたたちはストーリーテリングに重きを置いているようですね。Minimumsの刊行もそうですが、プロダクトエクスペリエンスをデザインし、作り上げるプロセスなどにおいても。

ストーリーこそが重要だし、それがNeed/Wantのコアでもある。プロダクトの背景にあるストーリーは、人がそれを買いたいと思う大きな理由になるからね。私たちのプロダクトにはたいていある種のイノベーションや新しい工夫が加えられている。例えば、超極薄iPhoneケースPeelの開発過程では、iPhoneを保護しつつもその美しさを損ねないためにはどうすればよいかを話し合っている。よくある嵩ばるケースと対照的なのはそこかな。

結局全てのプロダクトを自分たちのために作ってきてるから、なぜそれが重要で、エクスペリエンスのキーになるのかを、語ることができるんだ。

—— デジタルから物理的なプロダクトに移るのにリスクは感じませんでしたか?

初めてということでリスクは感じたけど、物理的なプロダクトのクールな点は、形を与えられるということ。それには値段があり、触れることができ、そして誰かがそれを買う。それはスタートアップの世界から見ればイケてるコンセプトなんだ。

値札の付いたものを実際に売るというのは、莫大な資金を用意するのに比べて、はるかにストレスが少ないね。資金が瞬く間に減る中、それが完全に底をつく前に利益を出せるようにしなければならない。そんな高いストレスレベルに長くさらされた後だったから、ビジネスの調子が手に取るように分かる物理的な世界って本当に楽しいんだ。

—— 自分でデザインし作った物を、実際に手に持つことができるって何か意味あると思いますか?

純粋にデジタルの世界だけで働いていると、Googleアナリティクスのデータを見ればどれだけのユーザがプロダクトを使っているかすぐに分かる。だけどその実感は、実際手に持って使える物理的なプロダクトとは比べものにならない。配送センターに行って、Smart BeddingとPeelの山を目にすると今でも感動するよ。

一度「おお、これが実物だ」という驚きを経験すると、物の感じ方が完全に変わってしまうね。

—— しかし、リアルプロダクト特有の問題もありますよね。最近、中国の自社工場を訪れたみたいですが、供給と製造のラインを実際に見るべきだと考えるのはなぜですか。

今みたいに自社のサプライヤーに足を運び、全てを監督することができるノウハウと資金を持つ前は、電話やEメール、Skypeで彼らと話してた。こっちから図面を送れば、向こうからは何かしら送り返してはくれる。しかしそういったやりとりは数週間に及ぶこともあった。サンプルにおかしな点があれば、さらに数週間かかる。プロジェクトの遅延具合は凄まじかった。

Smart Beddingの立ち上げ時には、とにかく堂々巡りは避けたかった私たちは、中国に行くことを決めた。工場で過ごす20分は、オンラインや電話で何週間も繰り返すやりとりに匹敵したよ。

—— リアルプロダクトを作りたいと考えている人に一番伝えたいアドバイスは?

極度にシンプルな物を作るのでない限りは、それが何であれ、実際にプロダクトを作る人に会いに行き、顔を会わせて話すこと。でなければ、コミュニケーション不全に陥ってトラブルになってしまう。

また、製造の過程を全て見ること。プロダクトがどう作られるのかという重要な視点が得られる。Smart Beddingでは、ストーンウォッシングのプロセスや縫製など、実際にファブリックが作られるのを見ることができた。Peelの場合はどれだけの工程が手で行なわれているのかを知った。型にプラスチックを流し込むだけではなく、継ぎ目の周りの余分なプラスチックをカットし、溶かし去り、クオリティチェックを経て、最高のクオリティに仕上げられていることを確認できた。

そして中国での製造に様々な偏見があるのも知っている。しかし私たちにとっては場所にとらわれることなく、それがどこであってもただ最高のパートナーを持ちたいと考えた結果なんだ。

サンフランシスコにいた時は、まわりはスタートアップ界隈の人しかいないように感じた。セントルイスでは現実に戻って、様々な職業の人たちに会うことができる。
― David Myers

—— 場所にとらわれないというコンセプトもNeed/Wantモデルの一部であるように思えます。シリコンバレーからセントルイスへの「意図的な移転」の経緯を聞かせてください。

Need/Wantを始める前、Jonと私はサンフランシスコで働いていて、Marshallは自身の会社をセントルイスに置くことで交付金を得ていた。コストで見るとJonと私は、Marshallがセントルイスで払っている家賃の何倍もの額をサンフランシスコのアパートに費やしていた。「プロダクトを作りたい、だったら滑走路はできるだけ長いほうがいいな」という堅実な観点で、セントルイスにより大きなチャンスがあると思ったんだ。

それに、サンフランシスコのような街で生まれ育った訳でもないから、若い時から自分が持つ強いコネクションの大半はTwitterやフォーラムを通じて得たものだった。今後、ビジネスで大きな成功を収めるには、実際にどこにいるかが重要ではなく、オンラインや出張でコネクションを作ることだと、さらに多くの人が気づくんじゃないかな。

サンフランシスコは迷子になるほど巨大なスタートアップコミュニティ。初めてそこに移った時は、あらゆる人からスタートアップのアイデアを聞きたいと思ったね。誰もが興味深かった。けれども結局はその環境に麻痺し、しまいには燃え尽きてしまうかもしれない。

そこから遠く離れたセントルイスでは、多くのスタートアップが助け合い、個々のスタートアップだけでなく、街を作り上げていこうとするコミュニティのようになっている。その中にいられるのはとてもクールだよ。

—— 「ITの街」ではない場所にいることが、思考の多様性に繋がると思いますか?

そうだね、アイデアの観点からさえもそう思う。サンフランシスコにいた時は、まわりはスタートアップ界隈の人しかいないように感じた。セントルイスでは現実に戻って、様々な職業の人たちに会うことができる。

これは多様性だけではなくて、スタートアップ界隈以外の異なる意見、考えを持つ人たちに会えるという面でも良い。その人たちと知り合わなければ見つからなかったアイデアに触れられるんだ。

他にも私はNeed/Wantの以外にFrudaという小さなデザインコンサルティングエージェンシー(Crewの中で雇えます)を友人のJuianと運営していて、これは自分の考えをフレッシュに保ち、ECの世界に留まらないようにしてくれている。

—— 最後に、あなたのTwitterハンドルネーム(@digit)の由来は?

そうだね、話はもっと若かった頃。IRCやフォーラムでは、もちろん”David”は既に取得されてしまっていたからね。だからこの名前に決めて、長い間変わっていないよ。もう随分昔から。

—— 12歳の時に付けた名前がずっと付いて回るなんて、思ってもみなかったんじゃないですか?

(笑)そうだね、その通り! 何とでも好きなように呼んでくれ!

DavidとNeed/Wantチームについては、Twitterまたは彼らのブログ、podcastシリーズでフォロー可能だ。