デザインとは決断である

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SAP Dublin UXデザイナー

デザインとは、一連のデザインプロセスによって目に見える作品を作ることだと考えている人は多い。中にはデザインをアートと誤解している人すらいるが、これは全くもって間違いである。

言うまでもないが、デザインとは単なる視覚的な表現方法を超越した奥深いものだ。デザインプロセスについて突き詰めていくと、その真髄は次のシンプルな言葉に集約される。

デザインとは総じて、物事の仕組みを決断することだ。

このような決断は時に、ユーザーの目には全く映らない形で製品に反映される。実際、時代の流れと共に、人目につかない接続された小型デバイスが私たちの周りに増えるにつれ、決断を下すことがデザイン作業の中心になってきている。その決断はユーザーが直接気付くものではないにしろ、彼らの生活に大きな影響を与えているのだ。

例として、コンピューターを使う人なら誰もが日常的に行っている簡単な操作について考えてみよう。Command + Tab(Windowsの場合はAlt + Tab)キーで、実行中のアプリケーションを切り替える操作だ。

このキー操作を素早く行うと、単純に最近使用した2つのアプリケーションの間で、フォーカスが切り替わる。その間、ユーザーの目には何も映らない。一瞬で、1つ前に表示したアプリケーションが前面に表示されるだけだ。


素早くキーを押下

一方、ユーザーがCommandキー(Windowsの場合はAltキー)をもう少し長く押し続けると、今度は実行中のアプリケーション一覧が表示される。


ゆっくりキーを押下

これは、よく考えられたデザインの決断である。視覚的なインパクトは、むしろ少なくなっている。素早くキーを押下した場合は、(アプリケーション間のフォーカスの切り替えを除き)実行中の操作に関する視覚的な情報を表示しないようにしているのだ。

では仮にキーを押下するスピードによらず、反応が同じだったらどうなるだろうか? この場合、ユーザーがCommand + Tabキーを素早く押下するたびに、画面の中央がちらつくので、便利な機能というよりもバグに見えてしまうだろう。

こうした理由から、実行中のアプリケーション一覧の表示を50ミリ秒遅らせるという決断が下された(オペレーティングシステムによっては上限を100ミリ秒まで設定できる)。こうすれば、ユーザーが設定時間より早く指をキーボードから離した場合、アプリケーションのフォーカスが切り替わるだけで画面一覧が現れることはない。

こうした決断が、現代の私たちのユーザーエクスペリエンスの思想の大部分を形作っている。

携帯電話の画面は、1分間で表示が消えるように初期設定されているが、ほとんどの人はこの設定を変更しようなどとは思わない。これはよく考えられたデザイン上の決断である。携帯電話のオペレーティングシステム作成者にとって、この数値を変更するのはもちろんささいなことである。しかし、1分というのは熟慮の末に選択された数値なのだ。それより長ければバッテリーが余計に消費されてしまうし、それより短ければ、ほとんどのユーザーが、何かを読んでいる際に画面が消えるのが早過ぎると感じてしまう。

煙感知機の作動に際しては、空気中の粒子の数の閾値がよく考えられてデザインされている。この数値の設定を上げたり下げたりすることは容易だが、この特別な数値については、命に関わるデザイン上の決断がなされているのである。車をリモコンでロックする際に何回ピピッと音を鳴らすのかについても、よく考えられてデザインの決断が行われている。あなたのイスのひじかけの角度についても、誰かがデザイン上の決断を行っている。

周囲のあらゆるものについて、誰かがデザイン上の決断を下しているのである。