デザイン神話の崩壊: あらゆる職種に求められる「デザイン思考」とは?

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経営アドバイザー、TEDスピーカー、作家。

産業、学問、行政といった分野で信じられている神話がある。それは、デザイナーは普通の人間には考えもつかないような独創的な思考をする人と見なすことだ。そして、彼らが独創的で斬新な思考に長けているという点で、他の誰よりも優れているという考えだ。根拠はないのにもっともらしく聞こえてしまう。なぜ無意味で誤った考え方を、私たちはいつまでも信じ続けているのだろうか? 結局、デザイナーは外観を美しくする以上のことをするものだと人々に信じてもらうためには、こうした神話が非常に便利な手段になると分かっているからなのだ。しかし、役に立つからと言って事実をねじ曲げるわけにはいけない。

システム思考

デザイン思考とは何だろうか? それは、直面している問題を、一歩引いて広い視野から見てみることである。それにはシステム思考が必要となる。システム思考とは、どんな問題も大きなシステムを構成している一つの要素であると捉える考え方だ。すると、全体のシステムを理解することが問題の解決につながる。実際に解決に至るまでには、何度も注意深い観察と解析を繰り返しながら問題にじっくりと集中する必要がある。テストしては結果をフィードバックし、繰り返し改正するといったプロセスになる。これをグループで行うこともある。グループは、問題に対して異なる専門的見地からアプローチができるよう、各分野のエキスパートで構成された集学的チームになる。つまり、とにかく対象の問題ばかり見つめることから離れ、新たな視点やより広い視野からアプローチすることが最も重要なポイントになるのだろう。何だかとても特別な感じに聞こえる。

しかし、デザイナーがデザイナーとしての活動を始めるよりもずっと前から、人々は画期的なアイデアをひらめいたり、クリエイティブな思考をしたりしてきたことが歴史からも分かる。そのプロセスを詳細に調べてみると、現在”デザイン思考”と称される思考法は、いつの時代もクリエイティブな人々があらゆる領域でやってきたことだ。科学、工学、文学、芸術、音楽、歴史学、法学、医学といった様々な領域での飛躍的な進歩は、こうした領域に関わっていた人々が新たな見識や新たな視点を発見し、それを伝播していく中で遂げられたのだ。そんな時代には、クリエイティブな人材、つまり社会通念を打ち破る素晴らしいアイデアを持った人材が不足するということはなかった。なぜなら、そうした人たちが自分は特別な思考ができるのだと主張することなどなかったからだ。彼らにとっては、ルールを打ち破り、既存のパラダイムを超えて、ゼロから考え直すということがごく自然にできることだったのだ。そう、つまりデザイナーはクリエイティブだとは言えても、比類なき才能にあふれているとは言い難いのだ。

外側からの視点

デザイン・コンサルティング会社も特別こうした思考法に優れているのだろうか? 社員たちは皆、クライアントの会社にいる社員たちよりも高い創造性を持つ、天性の才能に恵まれた人間なのだろうか? いや、違う。だが、彼らにはそう思わせる効果的な特徴が一つある。それは、彼らが外部の人間だということだ。グループに属する人たちは、従来のパラダイムから抜け出すことは難しいと分かっている。それは既知の事実なのだと思い込み、疑問を持つ対象にはならない。こうした思い込みの多くが、あまりにも長い間、重力のように存在してきた。当たり前のことであるため、改めて考えようとはしなかったのだ。そこで、新たな視点をもたらすのが外部の人間なのだ。彼らは、ありとあらゆること、たとえ誰の目にも明らかなようなことであっても構わずに質問する。彼らにとっては容易なことなのだ。外部の人間には、伝統的な従来の企業ポリシーを守る必要もなければ、社内で標準化したやり方を踏襲する必要も、さらには昇進やボーナスを心配する必要もないからだ。

デザイン思考とは、昔から行われてきた創造的思考を表すPR用語だ。デザイナーだけが使う言葉ではない。偉大なアーティスト、偉大なエンジニア、偉大な科学者には境界がない。偉大なデザイナーもしかり。これほど明らかに間違っていることならば、なぜデザイン思考の神話を信仰し続けるのだろうか? 理由は、それが便利だからだ。デザインの役割は、いまだにひどく誤解されている。世間一般には、デザインは”見た目を良くするもの”と捉えられている。このような誤解が、いまだに多くの企業幹部、マーケティング部管理職、プログラマーやエンジニアにも広まっているのだ。

なぜデザインに関わるコミュニティはこの神話をひたすら信仰してきたのだろうか? それは、そのことがデザイン・コンサルティングにもうまく役立つからだ。もし私たちがデザイン・コンサルティング会社に雇われれば、彼らの指示によってクライアントとなったあなたに魔法をかけるだろう。そうして、活気がなく形式にとらわれて生産性の落ちている会社に劇的な効果をもたらすわけだ。だから、うちは極秘の強力な武器を持っていますよ、と主張する価値もあるのだ。

デザイン思考のビジネスへの適用

しかし、デザイン思考という言葉を利用するのには、もっと重要で合理的なもう一つの理由がある。それは、デザイン思考という言葉がデザインをユニークな方法と位置づけ、企業のデザインに対するこれまでの見方を変えてくれるという点だ。”思考”に重点を置けば、デザインは外観を美しくするということ以上に、構成要素と構造を持つということがポイントになる。するとデザインという手法は、例えば組織の構造や工場の現場、サプライチェーン・マネジメント、ビジネスモデル、顧客とのコミュニケーションなど、どんな問題にも適用できるのだ。

デザイン思考とは、デザイン会社の企業イメージを変える強力なPR用語だ。デザイン会社がこぞって取り入れたがる、得体の知れない、ビジネスとは無関係に思える変わった手法。デザイン思考にはどこか神秘的なオーラが漂う。そう、「私たちの流儀はあなたのとはモノが違う」とアピールしているのだ。この言葉がとても強力でユニークである理由だ。昔から変わらないデザイナーの流儀がどれも効果的なものだと言える根拠などあるだろうか? 当然ない。でも、誰にも言わないでほしい。

こうして、”デザイン思考”という言葉は長らく生き続けてきたのだ。今後、デザインが外観やスタイルを指す時代から、機能や構造を指す時代への転換という局面に役立つことだろう。また、デザイナーがあらゆる問題に価値を加えることができるこの言葉を広く普及させるのにも役立つだろう。例えば健康管理から公害問題、ビジネス戦略や会社組織などだ。この変革が起これば、この言葉は自然に使われなくなる。ただ、一方では神話を利用しよう。神話を信仰しているように振る舞うのだ。ただし、本気になってはいけない。