エンドユーザーだけ見ていてはダメ — 小学校の授業から学ぶ本質的なサービスデザイン

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「人を動かす力」と聞いた時、どんな力を思い浮かべるだろうか。天性からくるカリスマ的なもので語られる事もある。一部のヒーロー的な経営者はその力を持っていたかもしれない。しかし天才的なカリスマ性が無くても人を動かす立場には立てる。マネージャーになったなら誰もが1度は読むであろう「人を動かす◯◯の法則」などの本には大抵この様なことが書かれているだろう。「人間力」「ポジティブ思考」「自分がやってみせる」「プライドを捨てる」などだ。今回はこれらとは違う話をしたい。

小学生を動かす力

ある小学校教諭のワークショップがすばらしかったので紹介しようと思う。小学生は大人たちが思う通り、思った通りに動いてくれないもので、教育現場でもそれは同じだ。「あれやれ」「これやれ」で一時はうまく事が進む様に見えるものの、結果としてうまく進まない。そんな中で、小学生を自発的に動かし、自ら学習させるプログラムを実践しているのが沼田晶弘氏だ。

これはワークショップの中で彼の語った内容の一部だが、聞けば聞くほどサービスデザインに活かせるヒントが出てくる。さらにワークショップの中核である「アナザーゴール」に迫った時、それはサービスデザインそのものだと感じた。以降、小学生をユーザーと汲んで紹介するが「ユーザー=小学生」と読み取っても面白いかもしれない。

アナザーゴールという考え方

簡潔に言うと次のとおり。

例えば、先生が生徒に日本の地理の学習をさせる場合を考えてみる。普通なら47都道府県の県名、県庁所在地名、特産品、位置関係、などを暗記させるだろう。沼田先生はどうやったか。「勝手に観光大使」という取り組みをおこなった。生徒1人1人が、その日から勝手に観光大使に就任してしまうのだ。勝手だから、好きな都道府県を選び、自分で選んだ県だから、勝手にしらべる。そして新しいもの好きな小学生は、パワポという遊び道具を渡され、自発的に面白い資料を生み出し、最終的にはプレゼンテーションできる様になるのだ。さらに取り組んだ結果を知事に送り、感謝状が帰ってくるという承認欲求の仕組みまで入っている。この取り組みを通し「地理の学習」のみならず「PCスキルの上達」や「表現力の向上」など、サービス提供者が思った以上にユーザーが行動している点に注目してもらいたい。

ここで今回伝えたい事は、UXデザインとは問題の本質を理解し、最適な解決法を与えるという事だ。

サービス提供側の思惑

私がUXを勉強したての頃は、しばしばUXのUであるユーザーにフォーカスし過ぎていた。UIやUCD(ユーザー中心設計)、カスタマージャーニーマップなどだ。そして今でもこれらは大事だと思うが、これらだけでUXの話をするのに違和感を覚える様になってきている。それは「問題の本質に対し、最適な解決」をするには、ビジネスサイドの思惑が不可欠だと考えるからだ。

ビジネスサイドとは何を言っているか。ITサービスの話であれば、企業活動であり営利だ。営利が無ければユーザーにとって便利であろうサービスは継続しないし、機能も向上しない。商品であればユーザーから金を取る話になるが、サービスでは、運営資金を提供する者がユーザー(エンドユーザー)とは別にいる場合がある。

リクルートではリボン図というモデルが度々登場し、「ユーザー」と「顧客」双方のメリットをしっかりと抑えて事業を考える共通言語がある。


リボン図(実際は事業内容毎に双方の思惑を多段式に入力していく、キャンバスの様な使い方をする)

本質を理解せずによいUXはできない

深い理解が足らずに、ユーザーにとって最適な体験を与えるだけでは、薄っぺらなUXになるだろう。地理の学習をアナザーワークショップで成功させるには、ユーザーに対する深い洞察が必要で、小学生の好む体験(好きな物(自ら選んだ物)をやる事が好き、新しい物が好き、勝負が好き)を的確に把握していた。そしてサービス提供者としての常識に囚われず「本当にやってもらいたい事」を研ぎ澄まし、高いバランス感覚でソリューションを生み出した結果が「勝手に観光大使」だった。
これと同じ事がITサービスでも言えると思う。単にユーザーに喜ばれる体験を提供するだけでは、本質的な問題を解決できないだけでなく、ビジネス的な課題も解決できず、よいUXとはならない。解決したい課題はその時々だが、今回感じたアナザーゴールという考えを忘れない様、文章に残しておこうと思う。

このエントリーはUX Tokyo Advent Calendar 2015の6日目の投稿です。

参考資料