「シンプル」が正しいデザインではない

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UXデザインファーム Forty の創業者。Croud Favoriteではチーフクリエイティブオフィサーを務める。

モバイルファーストデザインは簡潔で分かりやすく、理論的に思える。しかし、UXデザインは決してそれほど単純ではなく、本当の問題が解決されたことにはならない。「正しい」モバイルファーストデザインとは?(後編)

前編 → モバイルファーストはUXではない

問題は裏返しても解決しない

ある極端な状況に挫けそうな時、私たちは別の極限に飛び移るという反応をしてしまうことが多い。デスクトップ第一でデザインし、モバイルの扱いはその後で考えるのは間違っている。ならば、私たちの業界は、モバイル第一にデザインし、デスクトップについては後で考えよう、と応じたのだった。

私たちは問題を解決していない。ただそれを裏返しただけだ。

スマートフォンを使っている時なら、新しいAdobe Acrobat DCのようなインターフェースを歓迎するだろう。私の太い指は大きなアクションボタンの上で自在に踊り、それは小さなスクリーンでも難なくはっきり見えるだろう。

しかし、机上の大きなモニターの前にゆったり腰かけ、精度の高い光学式マウスを使っている時に同様の制約はない。そのコンテキストでは、巨大なボタンはソフトウェアをFisher Priceのオモチャのように見せ、私が使っている非常にパワフルなディスプレイと入力デバイスには、ほとんど滑稽なほど不釣合いである。

新規ユーザー vs パワーユーザー

私の妻KatieはBusiness as Familyというpodcastを持っていて、音源のポストプロダクションにAdobe Auditionを使用している。優れたソフトウェアで、新規ユーザーは、例えばAppleのGarageBandのようなシンプルさがないと感じるかもしれないが、全体的によりパワフルで柔軟なツールだ。

GarageBandはデザインが素晴らしく、使いやすいソフトウェアなのに、なぜAuditionを使うのか? ユーザーフレンドリーには2種類あるというのがその理由である。

Garagebandは新規ユーザーには親切だが、パワーユーザーにはいら立ちの元である。絞り込まれた機能、巨大なボタン、フレンドリーなアニメ、1ステップずつ段階を踏んで進むプロセス等々の全てが新規ユーザーにほとんどストレスを感じさせることなく、ソフトウェアになじませ、すぐに使い始められるようにしてくれる。

一方Auditionは、作業に慣れていて、コンセプトを理解しており、たとえインターフェースがゴチャゴチャしていても、情報と機能を見渡しすぐにアクセスできる利便性を好むパワーユーザーに向けてデザインされている。エキスパート用にデザインされたソフトウェアを観察すると、慣れていない人には複雑に見えることが多い。

ユーザーエクスペリエンスデザインの領域では、上述の1種類目のユーザーフレンドリーさへの強い偏りがある。私たちは取り付かれたように新規ユーザーのための最適化を行い、新規ユーザにとって良いものは誰にとっても良いのだと、(たいていは誤って)思い込むのである。できの悪いソフトウェアが方々に転がっている現在において、新規ユーザーが簡単に使えるものを作るのは大きな進歩ではあるが、ユーザーエクスペリエンスのパズル全体からして見れば、それはごく1枚のピースに過ぎない。

この「新規ユーザーバイアス」を理解するのは大切だ。なぜならそれが、モバイルファーストが間違っている理由の1つだからである。時として私たちは、「ミニマリズム」、「シンプル」、「抑制」といったコンセプトに集中するあまり、それらが常に正解ではないということを忘れてしまう。場合によっては、とりわけ頻繁に使うソフトウェアでは、閲覧性と効率性を上げる複雑なインターフェースが実際に適切な例もある。

モバイルファーストデザイン式のアプローチは、この新規ユーザーバイアスにおいて有効に働く。だからこそ、デザインコミュニティに瞬く間に広まったのである。私たちは何かを「子どもが使えるくらいシンプル」にデザインするのが好きだ。そして、実際は子どもではないターゲット層がそのようなインターフェースに不満を募らせているのを忘れてしまうのだ。

モバイルファーストは妥協の解決法である

どこかの完璧な世界では、ソフトウェアは、それを起動できるあらゆるデバイスのスクリーンサイズのバリエーションに適合するのだろう。モバイルフォンバージョンはスクリーンサイズと入力デバイスに合わせて調整されるに違いない。タブレットバージョンはまた別で、おそらくタブレットならではの持ち方が活かされ、スクリーンサイズに応じて親指の移動が少なくなったりするのだろう。そしてデスクトップバージョンは、ワイドスクリーンサイズ、モバイルとは違ったユーザーポジション、高い入力デバイスの柔軟性を基準にした全く異なるレイアウトなのだ。

(これらは多くのデザイン例のほんの一部に過ぎない。実際は、電話、タブレット、デスクトップ用以外にもありとあらゆるコンテキストが想定される)

しかし、ここは完璧な世界ではない。この世界にはあらゆることに予算と納期がある。つまり、効率性のために妥協しなければならないということだ。

モバイルファーストデザイン自体は、正しい答えである。効率的な答え、と言ってもいい。1つのデバイスのためにデザインし、その後に他のデバイスでは機能が増えたり絞られたりするようにいじれるなら、デザインプロセスから多大な時間を削り落とせる。デザインしなければならない対象デバイスが豊富にある場合、それは確かに良いことだ。

(そして様々なデバイスでインターフェースの一貫性を強要することについては言いたいことがあるが、その重要性については過大評価され過ぎている。例えば、FacebookのモバイルアプリとFacebookのデスクトップのWebエクスペリエンスはかなり異なっているが、一般ユーザーが2つのデバイスを行き来するのに苦労しているとは聞かない。)

モバイルファーストデザインについて議論、プロモーションを進める時は、それが、限られた予算とスケジュールの中で、許容される良い結果に至るための、効率的な妥協の解決法であることを忘れてはいけない。その方法自体は、様々なデバイス全てにおいて理想のインターフェースへ至る輝かしい道ではない。

正しいモバイルファーストデザインの原則

いくつかの一貫した原則に留意すれば、モバイルファーストデザインは非常にうまく機能することもある。

  • コンテキストに沿わせる。デスクトップバージョンのデザインが、ただモバイルインターフェースを大きく広げただけの代物であってはならない。インターフェースの大部分を別のメディア用に入れ替えるWebテクノロジはたくさんあり、例えば、モバイルバージョンでリスト表示されているものがデスクトップバージョンでこともなくデータテーブルに変わったりする。ある要素を大幅に変更しなければならないとしても、インターフェースはコンテキストに沿うように作成すること。

  • デバイスの向きと入力方法を考慮する。スマートフォンアプリのユーザーは、タテ表示の画面内で、利き手の親指を使って多くの動作を行うだろう。よって、ナビゲーションと機能をスクリーンの下部と中央に表示し続けるのは理にかなっている。タブレットではヨコ表示の状態で、両手(人差し指を含む)を使うことも多いので、届きやすい範囲に機能を追加する余地がたくさんある。デスクトップではおそらく操作性の良いマウスかトラックパッドが使われ、大きなスクリーンに細かい点まで容易に表示でき、重要な機能は下部よりも天に表示されることを期待される。もちろん、これらの原則は全てアプリの性質によって異なってくるが、コンテキストの違いによってインターフェースを大きく変えるのは当然だということが分かるだろう。ユーザーがディスプレイの電力や入力制御を増やしてきたら、それを適切に有効活用しよう。

  • レイアウトでなく、機能を重視する。モバイルファーストデザインがもたらした最も大きな変化は「それはモバイルでは不可能」という考え方が過去のものになったことだった。今ではモバイルインターフェースはデスクトップソリューションが提供する機能へのフルアクセスを期待される。それはモバイルファーストデザインの重要な価値基準だ。それに比べると、インターフェースレイアウトが、複数のデバイスに渡って「同じ」であることは取るに足らない。

  • 利用状況に合わせる。原子力発電所を監視するインターフェースをデザインするとして、その大半は誰かが1日中ワークステーションの前に座って使うと想定するなら、デスクトップファーストでデザインして何の問題もない。(もちろんこれは、モバイルインターフェースは機能を制限した切り落としバージョンでよいというわけではない。デスクトップバージョンでできることはほぼ全て網羅すべきである。しかし、利用状況があるコンテキストに大きく傾いている場合は、別のコンテキストのためにデザインされたインターフェースから推定するよりも、その利用頻度の高いコンテキストを優先してデザインするのが合理的だ。)

  • 基幹機能は最優先させる。最も制限のきついインターフェースバージョンでも、最も安定したバージョンと同様の基幹機能を提供すべきである。しかし、ユーザーのニーズや状況にとってより適切であれば、あるコンテキストにおいては、見え方、動き方が全く違っても構わない。

  • 安易にシンプルにしない。ソフトウェアの中には一度使われた後、滅多に再訪されないものもある(例、ショッピングモール内の案内スタンド)。こういった場合は「シンプルさ」を求めてデザインすることは当然あり得る。しかし、仕事や生活スタイルとして日常的に使われるアプリケーションをデザインする場合は、複雑なインターフェースになってしまうとしても、視認性と効率性を第一にすることが大事だ。モバイルファーストデザインを理由に、不適切なミニマリズムに偏らないようにしよう。ミニマリズムは万能の答えではないからだ。

UXは汎用的な答えを得られるほどシンプルではない

モバイルファーストデザインの根拠を少しでも崩そうとしてきたが、はっきりさせておくと、私はそのアプローチのファンであり、ことインターフェースデザインに関して言うなら思考プロセスを鍛える素晴らしい方法だと思っている。

それでも、ある特定のUXソリューションへの崇拝で終わらないよう、肝に銘じたい。なぜならUXは汎用的な答えを得られるほどシンプルではないからである。モバイルファーストデザインは、厳しい予算とスケジュールにおいて良い結果を出すための妥協的なアプローチであり、その点においては、全てのデザイン状況に対する「真理」ではないとしても、非常に良い仕事をしていると言える。モバイルファーストデザインは、その真の実態を理解し、そして本当のコンテキスト仕様のデザイン思考を省く言い訳としてでなく、前進のためのプラットフォームとしてそれを選んだ時、最も力を発揮する。