ロゴのリデザインに求められる6つのポイント

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ニューヨーク在住。
ブランディング、タイポグラフィー、デザイン史などについて執筆。

ブランドの大規模なリデザインを行う際に、何よりも人々の関心を集めるのがグラフィックデザインだ。新しいロゴが世間に出た時、それがどんなものであろうといろいろな意見が出てくる。ここ数年間で大きな反響があったリブランドの6つのポイントを、デザイナーたちの引用とともにまとめる。

最近のリブランディングではメトロポリタン美術館が話題となっている。

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メトロポリタン美術館のロゴ。左が以前のもので、右が新しいもの(by Under Consideration

出てくる意見の多くは大体が同じでたわいもないものばかりだが(中にはまともなものもある)、実際のデザインそのものを評価するような意見はまれである。ということで、本記事では、過去に挙がった批判や、デザイナーたち自身によって発せられた意見を取り上げる。

リデザインのロゴの中には、ウルフ・オリンズ社やペンタグラム社のような世界でも有名なデザイン会社が作っているものもある。それ以外の場合は、マジック(もしくは大混乱)は社内チームの中で起こる。GapやAirbnb、最近ではUberが社内でプロジェクトを進めていた例だ。

あなたがその完成品を好きか嫌いかには関係なく、それぞれの作品を作ったデザイナーたちの思考過程を理解することで必ず何かの教訓が得られるはずだ。ここ数年間で大きな反響があったリブランドの6つのポイントを、デザイナーたちの引用とともに以下にまとめる。

1. 柔軟性

企業が、複数のサブ・アイデンティティを持っているのは珍しいことではない。それは企業の商品ごとに存在していたり、大学では学部ごとにロゴがある場合もある。

以下は、ペンタグラム社のPaula Scher氏がThe New Schoolという大学のブランドのリデザインをした時に新しく作り直したロゴである。

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The New School(by ペンタグラム

どんな方法でその学校を表現しようとも、同じ組織内のものに変わりないのだから、学部が違っていても統一感を出さなくてはならない。デザインには柔軟性が求められる。 — Paula Scher氏(by Fast Company

ワードマーク(文字だけで図柄がないもの)をデザインに採用する時は、柔軟性が必要だ。

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ペンタグラム社で同じような試みをしたのが、ペンギン・ランダムハウスのロゴである。この会社は2つの企業が合併してできた会社だ。出版社のペンギン・ブックス(元のロゴはペンギンのデザイン)と、ランダムハウス(元のロゴは家のデザイン)だ。

鳥小屋やイグルーなど、考えられるペンギンと家のコンビネーションをすべて試した。(中略)ワードマークならば、それぞれのイメージの自主性、権力、エネルギーを互いの妥協もなく中立的に表現できる。このロゴでは、新たに生まれた関係性によって、お互いを弱め合うのではなく、より強力に見せることができた。 — Michael Beirut氏(by Fast Company

しかし、さまざまなサブのロゴを作れるという利点があると同時に、デザインというのは見た目がよくなくてはならない。すでに独自のブランドロゴを持っているFodor’sやTen Speed Pressなどとも共存しなくてはならないが、ワードマークならうまくいく。この例をみると、シンプルなワードマークの柔軟性が有利なのも納得できる。

2. 可変性

私たちがよく言う「可変性」という言葉の概念は、「柔軟性」とは全くの別物だ。「柔軟性」とは、前述のとおり、さまざまな場面でも使い回すことのできる1つのデザインをいう。「可変性」とは、状況によってデザインの要素自体を変更できることだ。

Experimental Jetset社が手掛けたホイットニー美術館の「W」のデザインがいい例だ。このロゴは、グラフィックデザインの内容によって幾通りにも形を変えることができる。

ホイットニー美術館のデザインとは違い、まだ世界に浸透していなかったUberは、同じ考え方を採用し、2016年2月に自分たちの新しいリデザインを打ち出し世界展開を図った。1つのワードマークなのだが、ユーザがいる国に合わせて背景のパターンが変化するものだった。

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ある特定の市場向けにデザインをする時、私たちは、その文化を総体的に捉えることにしている。アートや、建築、伝統、伝統的な装い、最新のファッション、テキスタイル、環境などさまざまなものを考慮して、その文化にとって新鮮だが同時に関連している色やパターンを選ぶようにしている。Uberを展開する国ごとに、色のパターンが異なり、合計で65通りのパターンがある。これらの色とパターンは現実世界の多様性を忠実に再現している。時代の変化などによっては、色とパターンを変更することもできる。 — Uber

Uberのリブランドは、洗練性に欠けると、デザイン界では集中的に非難された。しかし、考え方としては実に面白い。

3. 永続性

混乱するかもしれないが、「永続性が感じられる」デザインというのも1つのトレンドとして紹介したい。柔軟性や適応性と似てはいるが、同じではない。これはウルフ・オリンズ社のChris Moody氏が唱えた概念である。

近年のブランド・アイデンティティは微妙に完結していないほうが使いやすい。手を加えやすいからだ。 — Chris Moody氏(by Creative Blog

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彼のチームが作成した新しいヴァージン・メディアのロゴが良い例だ。このリデザインにあたって、無限大記号をベースに作った元のロゴを継承することにした。しかし、昔のロゴはイギリス国旗のデザインが入っており、視覚的な複雑さがあった。そこで無限大記号のみを残して、他は全て削除することにした。

非常にシンプルなその形と、誰もが知っている元からある記号を使ったことで、皆が参加して「手を加えやすい」デザインとなった。

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誰でも簡単に描くことのできる形なんだ。曇った鏡にだって、地面にだって描ける。そんな簡単な形だからこそ、ブランドに対して人それぞれで違った印象を持つことができるはずだ。 — Brian Chesky氏(by Fast Company

このロゴに対しての印象はいいものばかりではなかった(多くのコメンテーターたちがこの図形を、奇妙で気持ち悪いと言った)。しかし、「永続性の感じられるデザイン」を採用したこのロゴは総合的に評価すべきだろう。

4. スピード感

こちらもウルフ・オリンズ社のChris Moody氏が唱えた概念である。

貴重な存在になってはいけない。デザイナーは、機敏に動ける機会があれば活用すべきである。デザイン会社が、クライアントとずっと顔を合わせずに仕事を進め、最後に完成した資料だけを渡す、という時代は終わった。多くのクライアントは、賢く立ち回り、今ある資源にそった仕事を行うデザイナーを求めている。(by Creative Blog

つまり、いつでも素早く動いて、何かを壊すことにも躊躇しないでほしい。リブランドをただのロゴ変更だと思っている人も多いかもしれないが、Moody氏はそれ以上のものが求められると言っている。近年、リブランドをゆっくりと展開をしていきたいと希望する企業は多い。

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以前、Yahoo!は新しいロゴを1つに絞る前に、29のパターンを提示した。Yahoo!は以下のようにコメントしている。

新しいロゴは、我々の刷新したブランドイメージと新たな試みを反映した、近代的なデザインでなければいけません。皆さんに馴染む時間を持ってほしいので、今回の変更には30日間の猶予を持つことにします。まずは、自社のホームページにさまざまなパターンのロゴを表示します。アメリカのネットワーク上で来月まで続けます。この試みは、我が社の遊び心であり、今まで使い続けてきた伝説的なロゴに敬意を払うためでもあります。(by Yahoo!

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反応はいろいろあったようだが、30日の猶予期間があったことで、会社のカジュアル感や分別ある遊び心を示すことができた。Yahoo!はこの期間、公式ロゴを補助線を残した状態で公開していた。興味がある人に、デザイン作成過程の「マジック」を、隠さず見てもらうことで成功した例だと言える。

5. バランス感

これもMoody氏の提案だ。

私たちはいつも、ブランドというパレットを構成しているのは何かということを考える。これをやることで、早い段階で優先順位をつけることができる。新しいアイデンティティを作って示す時、見る人たちにとっても全てが新しい。刷新された全てのものの、全ての意味合いを汲み取ってもらうのは非常に難しい。例えば、世界的で普遍性であるものにしたければ、ヒーロー像を作り出して、他のものは全て脇役にしてしまえばいい。色を選ぶ時も同じようにすればいい。あなたのブランドを録音用の調整卓だとする。全ての音を11に統一する、なんてしないでしょう? — Chris Moody氏(by Creative Blog

デザインの世界でバランスというと、構成のことだ。Moody氏は、新しくしたデザインのインパクトを和らげろと言っている。このインパクトは新しいブランドやリデザインなどをする際には、もちろん避けては通れないものだ。

つまり、ロゴの形が印象的なデザインを作りたい時は、カラースキームを落ち着かせたほうがいい。そうすれば見ている人は形にとらわれずに、そのデザインと関係性を結びやすくなる。一方で、デザインがシンプルだったり、ワードマークなどで図柄がない場合などは、色を強調してバランスを取るのだ。

6. 大胆さ

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企業のリブランドで最悪の結果を生み出してしまったのは、おそらく2010年に行われたGapのリデザインだろう。会社も考え直し、すぐに元のロゴに差し替えたほどだった。

リデザインされたロゴは、完全に当たり障りのなく、まとまりすぎていて、情熱の感じられない雰囲気だった。人々は、なんでここまで悪い方向になってしまったんだと思いを巡らせただろう。

Peopledesign社のJake Himmelspach氏は、Gapの状況を説明する、一見矛盾するような考え方を提示してくれている。

反対意見の少ない道を選び、全ての観客をもてなして要求に全て応えるような、「イエスマン」ブランドはすぐに消えるだろう。これを解決するには「チャレンジャー」なブランドにすることだ。チャレンジャーなブランドとは、自分たちの立ち位置やターゲット層を、4Kのテレビ並みに明瞭に把握している企業のことだ。これは、単に年齢や収入を元に客層を絞っているのではなく、人の中身に基づいて出された考え方である。 — Jake Himmelspach氏(by Peopledesign

Gapはこの「イエスマン」のワナに引っ掛かってしまったように思える。全ての人々に気に入ってもらうとしてしまい、結局は誰の心にも響かないものになってしまった。Himmelspach氏の言っていることは的を射ている。強制的に提示し、個性的で、自己満足的なアイデンティティを作って、観客に対して挑戦をするほうが断然、すばらしいアイデアである。すぐには理解してもらえないかもしれないが、最後には観客は集まってきてくれるはずだ。個人的なレベルで人々の心に訴えかけるものになるからだ。

メトロポリタン美術館のロゴ検証

ここまで、ブランドのリデザインのトレンドの6つのポイントを見てきた。では、メトロポリタン美術館を再検証してみよう。ちなみに、これはウルフ・オリンズ社がデザインしたものだ。

1. 柔軟性

その意図は見られる。メトロポリタン美術館は3つのサブ・アイデンティティを持っている。メインの美術館と、メット・ブロイヤー(コンテンポラリー・アートを展示する分館で、設計を担当したマルセル・ブロイヤーから名前が付いた)と、クロイスターズ(ロマネスク様式の大修道院を模した分館)である。本館用に作られたワードマークのロゴは他の2つにもマッチしている。成功してはいるが、まだ議論の余地がありそうだ。

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2. 可変性

突出して可変性があるとは言えないが、その方向性を試みることはできる。例えば、ビジター・ガイドのパンフレットを赤から紫のスペクトルを使って、別の言語ごとに色相を変えるなんてことが可能だろう。

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3. 永続性

これは疑わしいところだ。このワードマークは、人々に馴染みのあるような書体を使っていて、図柄はない。その点を考慮すると、以前のロゴよりは永続性がないと言える。さらに、正式名称の「The Metropolitan Museum of Art(メトロポリタン美術館)」を、省略した、よりカジュアル感のある「The Met」としている。これは多くのニューヨーカーが会話の中で使用している呼び名である。しかし、ヴァージン・メディアのロゴのような、他のものにも複製して使えるようなものでは決してない。

4. スピード感

スピード感があり過ぎて、レターヘッドのロゴは、Webサイトが変更になり、社内にある垂れ幕が交換される前から変わっていたようだ。(以前のロゴとの差が少なく、気づかれなかったようだが。。。)

5. バランス感

良い。このワードマークのロゴは印象的だが、複雑すぎることはない。そして、図形でもない。図形ではない分、色が前よりも強調されて感じる。以前のものとは別の視点からインパクトを与えたと言える。

6. 大胆さ

デザインに関して主張する方法は、以下の2つのどちらかである。観客が予想もしていなかったような(最後には受け入れてほしいが)、世間にチャレンジするようなロゴであるか、もしくは、道筋をそれて、多くの人々、例えば、有名な芸術家たちの層や、同年代の層や、中世マニアたちの全ての人に「イエス」と言うことで、本当のユーザーとの接触を断ってしまうロゴか。ここではまだ判断しないことにしよう。


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