貯蓄のUXをリデザインしてみる

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SAP Dublin UXデザイナー

銀行はイケてない。本当にこのままでいいのだろうか。

つい先日、私は木製のコースターが欲しくてたまらなくなり、ネットで探し回った。Amazon、eBay、Etsyをはじめ、小さな個人商店のサイトまで、隅から隅まで思いつく限りの場所を見て回った。ところが私の欲しいイメージとは少し違うものばかりで、結局ピンポイントで欲しいと思える物は見つけることができなかった。

お金を使う気満々だった私は、50ドルを自分の貯蓄口座に移すことにした。しかしそれは失敗だった。結局何かを買った気にはなれず、満足できなかったのだ。

この時、ふとこう思った。

貯蓄口座への預け入れを、ワクワクした購買体験みたいにリデザインできないだろうか?

ちょっと突飛な話かもしれないが、是非最後まで付き合ってほしい。

プッシュ型体験とプル型体験

お金を使う流れを整理すると、プッシュ型体験とプル型体験に分けられる。銀行の貯蓄口座への預け入れというのはプッシュ型の体験だ。まず普通口座を持っていないと貯蓄口座は開設できない。普通口座から貯蓄口座に振り替える形になる(この操作が「プッシュ」だ)。これは普段の生活の中でお金を使う感覚とは異なる。通常お金を使うのはプル型体験だ。まずお店に出向き、そこで買った物の代金を支払うために自分の銀行口座からお金を引き出される。請求書払いなどの場合はプッシュ型の購買シナリオだ。まず請求書を受け取り、その請求書の指示通りに代金を振り込む。しかし一般消費者にとっての買い物は、プル型体験だろう。

したがって、購買体験みたいにリデザインするとしたら、貯蓄もプル型でなければならない。

どうプル(引き出す)型にするのが良いだろうか?

貯蓄すると何かコレクションできるというアイデア

ここで1つアイデアがひらめいた。「貯蓄預金を店にしてしまう」というアイデアはどうだろう。商品はアーティスティックな数字(実際は金額)のカードみたいな物で個々にデザインの異なる物にする。それはデジタル上でもいいかもしれないし、ユーザーの要望によっては、それを銀行独自の紙幣として発行してみてもいい。あなたは貯蓄預金の店に行き、店内を見て回り、50ドル(あるいは「使いたい」だけの金額)の紙幣の様なものを買う、というわけだ。

するとこの紙幣があなたのコレクションに加わり、あなたはそれを眺めて驚嘆したりする。紙幣の使い道はほとんどなく、コインや切手の収集に近いかもしれない。ただ目の前に置いて眺めると、ちょっといい気分になれるというだけのことだ。

このときの脳内の様子はこれまでの単に貯蓄するだけとは異なり、ドーパミンがどっと出るような報酬が得られるものだ。自分の貯蓄口座に50ドルを入金するための行動はこれまでの無味乾燥な機械的なものではなく、実際に店に行き、確かに買い物をする。そして買った物は目の前に存在し、お金を「使って」確かに何かを手に入れた感覚を得られる。素晴らしい!

むろん、ここでは実際にお金を使ったわけではない。ただ貯蓄口座に振り替えただけだ。

そしてこの口座のお金を下ろすには、先ほど手に入れたコレクションアイテムを「売却」しなければならないルールにする。これは貯蓄を取り崩すのを少し思いとどまらせる効果を狙って設定するもので、貯蓄時に手に入れた物理的あるいはデジタル上に存在するアイテムは手放さなければならない。お金を使うには所有している何かを売却しなければならないということだ。

このアイデアは少なくとも、以下に2つのコンセプトを挙げて説明するとおり、さらに広げることもできる。

追加アイデアA — 魅力を上げる

コレクションアイテムは何も紙幣っぽいものである必要はない。もっと見栄えのするアイテムにしてもいい。例えばダイアモンド、ルビー、エメラルドを彷彿とさせる宝石っぽい外観のものだとどうだろう。想像してみてほしい。貯蓄預金の店に行くのが、あのTiffanyに行くのと同じ気分になれるとしたら。きれいな宝石を見て回り、そこから選んで自分のものにするのだ。

また別のテーマにしてもいい。デジタル上の、骨董品専門の貯蓄預金の店はどうか。あるいはデザイナーもののハンドバッグ専門の貯蓄預金の店もアリだろう。こんな状況が実現したらどうなるか、想像してみてほしい。銀行がChanelやLouis Vuittonと提携し、ユーザーは洗練されたデザインのバッグを購入する(あくまでデジタル上でのコレクションだが)。なおバッグの価格はユーザーの日常の貯蓄額によって多少変動するというシナリオだ。貯蓄を切り崩して何かに使いたい? なら、そのChanelの黒い小ぶりのバッグを売ることだ。

こんな感じの新種の買い物依存症の人が出現するかもしれない。

またハンドバッグ買っちゃった、私ったらどうしちゃったんだろう
えー、見せてよ
もちろん! このスマホに入れたよ
ありゃー、これは確かにヤバいかも。あんた今月、これでもう3個目のバッグじゃん

こうなると買った物に一層愛着が加わり認知面での効果も高まるなど、ユーザーの脳はいよいよだまされることだろう。

プロセス全体を購買体験としてさらに追求してもいい。購入した商品はかわいらしいデジタルボックスに入れられてユーザーの手元に届けられ、ユーザーがデバイスの画面をタップするとパッケージが開く。お待ちかねの商品が中から飛び出す。かっこいいアニメーション、とにかく派手なビジュアル、効果音、キラキラ。スマホゲームのアプリ内課金に見られる、中毒性が高くドーパミンの分泌を促すようなモデル構築のノウハウを全てここで活用するのだ。念のため繰り返すが、あくまでユーザーは貯蓄をしているのであり、散財しているのではない。

追加アイデアB — 目的を持った貯蓄

何かを買う為に貯蓄している人に向けて、コレクションアイテムも貯蓄の目的と直結させてみてはどうだろうか。つまりデジタルパーツを購入していく、というシナリオも考えられる。貯蓄預金の店に行くとまず「貯蓄の目的は?」と尋ねられ、客は中古車、新車の頭金、休暇の旅行資金、コンピュータ、携帯電話などの選択肢の中から選べる、という仕組みだ。

ここでは例として、新しい車を買うために貯蓄するとしよう。

貯蓄預金の店で何かを購入するたびに、目標にしている車のパーツがそろっていく。最初に100ドルを預金すると、車のボディフレームが得られる。そこから預金を重ねると、ホイール、シート、ドア、エンジン、ボンネットと少しずつパーツが充実していき、貯蓄を購入する度にデジタルカーが組み立がっていく。そして驚くなかれ、デジタルカーが完成したあかつきには、なんと本物と交換できるということだ!

銀行はこの場合も自動車メーカーとの提携が考えられる。そうすれば客は貯蓄の目標として具体的な車種を選び、組み立てていけるからだ。

このシナリオなら、客はすぐに満足感が得られる。自分の夢の車を1ピースずつ組み立てていくのは、ただ貯蓄するだけの無味乾燥な操作よりもずっと楽しい体験になる。貯蓄する操作は、もはや単なる手間ではなくなる。顧客にとって見返りのある体験にすることができるのだ。

このアイデアの最終的な目標は、預金にハマる人が現れるぐらい、預金の体験を劇的に進化させることだ。「貯蓄預金をせずにはいられなくなる」ここがポイントだ。