フルスタックデザイナーは存在しない

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1人で全て出来るデザイナーは存在しない。足りないスキルが補完されるチームの中でこそ、個々のデザイナーは最高の仕事をし、チーム全体で素晴らしい成果を得ることができるのだ。

デザイナーにコーディングは必要か?

現在、私は優秀なインハウスデザインチームを構築するための書籍を執筆している。先日、デザイナーの専門技術の開発について述べた章の草稿を書き上げた。以下は、その時に考えた内容だ。

一般的に、人々がデザインだと考える領域は、デザインのほんの一部でしかない。デザイナーが考えるデザインの領域でさえ、デザインの全てを捉えてはいない。デザイン業界で20年間働いてきた人々にとって、業界内で繰り返され、最もストレスのたまる会話は「デザイナーにコーディングは必要か?」という話題だろう。コーディングができるデザイナーを「フルスタックデザイナー」として扱うことは、デザインを実務やスキルセットとしてしか捉えていない浅はかな考え方だ。これはデザインが持つ最大の可能性を損なう技術的な要求と言えるだろう。

ユーザーが組織と関わる相互作用の全ての側面において、デザインが作り出される可能性がある。これを実現するには様々な技術に力を注がなければならない。しかし、デザイナーの学ぶべき技術について議論すると、ほとんどの場合で、それらの多くが見過ごされてしまう。

ユーザーリサーチ
ユーザのリサーチセッションを行い(家庭内、社内、ユーザテスト、ダイアリースタディ)、分析によって重要な洞察を引き出す。

情報アーキテクチャー
コンテンツの構築、タクソノミーの開発、ナビゲーションの作成、情報のアクセス、利用、理解を可能にするその他の作業を行う。

インタラクションデザイン
ソフトウェアのインターフェースを、システム上のユーザフローと、相互作用の実現をサポートする、構造的なデザインとする。

ビジュアルデザイン
明快で分かりやすいだけでなく、製品やサービスの個性を的確に示す、色、構成、タイポグラフィー、ビジュアルヒエラルキー、ブランド表現を用いる。

ライティング
分かりやすく文書化されたコミュニケーションは、優れたデザインと同じように、認識されてユーザを誘導することができる。ほとんどの場合、文書化されたコンテンツは認識され、周囲を装飾したデザインよりもずっと有意義な情報となる。

サービスデザイン
全部門のシステムレベルを理解し(技術システム、フロントラインの従業員、ユーザーとの接点など)、利用客をサポートするためにコーディネートされたサービスを提供する。

プロトタイプ
ユーザーエクスペリエンスをより良く知るために、早い段階でデザイン案のシミュレーションを行う。かなり技術的(コーディングをする)になる場合や、After EffectsやKeynote、Quartz Composerなどのツールを寄せ合わせて作る場合もある。

フロンドエンド開発
完成したフロントエンドコードを引き渡す。デザインが提案どおりに実装されているかを確認することが非常に大切である。

デザイナーは1人で働くべきではない

ユーザーリサーチや情報アーキテクチャー、ライティングがコーディングと全く変わらない重要な技術だと議論するのは簡単だ。実際、これらは戦略的な試みをより強力にサポートしてくれるため、コーディングに取り組むよりも強烈なインパクトを与えられる。

これだけ幅広いスキルが求められると「フルスタックデザイナー」という考え方が愚かであると分かる。1人で全ての技術を使いこなし、さらに精通した技術も併せ持っている人などいない。私の経験では、ある人がエキスパートとなれる分野は1つ、または2つで、他に強いといえる分野が2~3、仕事として扱うことができるという程度の分野がさらに2~3あるくらいだ(この状態になれるのも10~15年働いた後だ)。

また、スキルの多様性を考えると、チームメンバーの技術を向上させる方法は、デザイナーの熱意、考え方、好みによって変わってくる。デザイナーの成長に決まった道などないのだ。コーディングを学ぶ者もいるだろう。リサーチについて学ぶ者もいる。(情報や人々の関係性についての)マッピングシステムを学ぶ者だっている。全て必要なスキルであり、他より優先させなければいけない特別なスキルというものはない。

重要なスキルの幅が広いということは、製品チームに1人のデザイナーしか配属しないという行為は愚かだということだ。1人で全てのスキルを運用できるデザイナーなど存在しない。そもそも、デザイナーは1人で働くべきではないのだ。足りないスキルが補完されるチームの中でこそ、デザイナーは最高の仕事をし、自分のスキルを最大限に活かすことができる。そうすることで、チーム全体で個々の能力の総和以上の成果を得ることができるのだ。

技術の多様性によって、誰が「デザインチーム」の一員かという一般的な考え方も変わった。私たちは、人ではなく技術的な内容を重視するべき時に、役職や肩書きを気にすることが多すぎる。コンテンツ戦略担当者(ライティングのエキスパートで、情報アーキテクチャーやユーザーリサーチに強く、インタラクションデザインやサービスデザインを仕事として扱う能力がある人)もしくはUXリサーチャー(ユーザーリサーチのエキスパートで、ライティングやサービスデザインに強く、インタラクションデザインや情報アーキテクチャーを仕事として扱う能力がある人)だってデザインチームの一員として考えることができる(考えるべき?)だろう。

「デザイナーにコーディングは必要か?」という会話に、私がストレスを感じる最も大きな理由は、これがデザイナーの障害となり得るということだ。コーディングへのこだわりは、生産性へのこだわりで、戦略的な思考を犠牲にする。デザイナーは補助的な立場になって、他者からの要求を受け、それを実行することだけが喜びになってしまう。デザイナーやデザインプラクティスが、要求を定義付けし、ユーザーの経験の全てを織り込んでデザインするという機会は広がり、内容も深くなっている。確かに、コーディングはその一部を満たすスキルだ。しかし、それは、ほんの一部に過ぎない。