デザインの現状:デザイン教育はこう変わるべき

Source

経営アドバイザー、TEDスピーカー、作家。

この記事はScott Klemmerとの共著です

Northwestern Ford Design Center-1 small.jpg

デザインとは、よりよい世界を作ろうとする試みの実践である。この分野は、人々のニーズを満たす優れた製品やサービスを見つけ出し、行動してそれを実現するというものだ。その行為によって人々を喜ばせ、人々に何かを伝える。デザインは刺激的なものだ。なぜならデザインでは、芸術、人文科学、社会科学、物理科学、生物科学、エンジニアリング、事業経営の全ての要素が要求されるからだ。

デザイン思考とは即ち、テクノロジーの設計に対して様々な人たちから理解が得られるように、問題を探し出して解決するための戦略だと言える。その際、分かりやすいソリューションに飛びつくのではなく、問題の核心を洗い出すことに注力するべきだ。テクノロジー、ビジネス、教育の各界で次世代を担うクリエイティブなリーダーにとっては、デザインを組み立てるスキルこそ、成功へのカギとなる重要な要因だと、私たちは考える。 

17c7d98

ただしデザインには、不確かな将来に向き合うという一面もある。かつてはデザインと言えば、モノづくりを指したものだった。ところが今や社会的な課題、文化的な価値、技術の進化によって、新しいスキルが要求されるようになった。今日のデザインは人間中心の視点と社会に与える影響を重視し、かつてなかったほどのレベルで技術と科学の進歩を取り入れたものになっている。さらに、職人の高度なスキルを必要としない業務やプロセスに対するニーズもある。しかしデザイン教育はもともと、その高度なスキルの伝達を主な目的としていた。

デザインは新しい問題に対して、クリエイティブな観点からの知見を提供できる場合もあるが、それはどちらかというと科学というより芸術であって、これを実行できるのは、一部の優れた才能の持ち主、またはデザイン会社だけに限定されてしまう。偶然による成功以上の成果を得るために、デザインはツールや方式を進化させ、理論的な要素や分析の技法をもっと取り入れることが必要だ。さらに、芸術と科学、テクノロジーと人間、理論と実践をどうすれば効率よく生産的に統合できるかについても、理解を深めなければならない。

デザインとはあらゆる分野を横断できるため、社会を新たな方向に導ける可能性ももっている。次の4つの特質で社会を変えることもできるのだ。

  • デザイン思考:問題の本質を正しく捉えた上で、確実に解決に向かうこと。
  • システム思考:全ての分野を視野に入れて考えを組み立てること。
  • 統合:理論を実践を融合させること。
  • 人間中心の考え方:人間とテクノロジーが調和を取りながら共同体として考えること。

開拓中の道筋

デザインは手を動かす仕事であるという教えは、今も広く伝えられている。本質を説明している原則は驚くほど少なく、科学的な要素もほとんどない。デザインが本当に、期待されている通りのことを実現するためには、斬新でありながら、今後も長く受け継いでいけるようなデザイン教育のカリキュラムを作らなければならない。それは、科学、テクノロジー、芸術、事業経営など、大学で教えられている知識の全てを融合させたカリキュラムだ。デザインは、経営学、エンジニアリング、社会科学、芸術の全てを統合して実現するものだ。この包括的な方法でデザインを学ぶ学生たちにこそ、大きな可能性が生まれるのだ。

エンジニアリングと経営学を統合した、複合的なデザインプログラムを開発した学校は、これまでにも多数あった。様々な分野の知識を持つ学生を集めてプロジェクトに取り組ませる、個別のコースを設けている学校も、さらに多数存在する。そのようなコースやプログラムはどれも魅力的で、有用で実践的な結果を生み出すこともしばしばだ(時には商業的な成功につながることもある)。こうした試みは、一見すると、素晴らしいもの、これこそ私たちが求めていたものだと思える。ただし、称賛に値するものではあるが、相互の関連性はなく、ばらばらなプログラムの中に含まれる個別のコースだ。ほとんどの試みでは、理論ではなく実践を目指している。デザインは人間に利用されるためのものであるにもかかわらず、社会科学や行動科学は、デザインのカリキュラムの中ではほとんど生かされていない。

今日、デザインの各コースとプログラムを繋ぐ方針は、ほとんど全て創設者によって作られている。最近では多くの大学がデザインに力を入れているが、我々が実践的なデザイン理論を作り出さないかぎり、実践的で持続的なイノベーションが教えられることはない。この点が明らかなことに我々も同意する。だからこそ、そんなイノベーションは生まれてこないのだ。

デザイン教育はどう変わるべきか

3abe0a7

大変興味深いことに、現在デザイン界で支持されている理論のほとんどは、他分野の理論の流用だ。例えば製品デザインの原則は、機械工学からもたらされたものだ。現在、インタラクションデザイン、ユーザエクスペリエンス(UX)、ヒューマンコンピュータインタラクション(HCI)などと呼ばれているものの理論の基礎は、主に社会科学および行動科学(例えば心理学、認識科学、人類学、社会学)に由来している。こうした取り組みは、コンピュータ科学の団体であるAssociation for Computing Machinery(ACM)からの資金提供を受けて、年次カンファレンスを開催できるまでに成果を挙げている。こういった他分野では、確実で有用な理論や原理を生み出しているが、デザインの特徴である、美的要素や伝統は組み込まれていない。多分野の分析に重点を置く方法に対して、デザインとは様々なものを集めて統合する行為の分野だと言える。この分析と統合、つまり科学やエンジニアリングから得た知識とデザインの実践の両者を結びつける論理やアプローチが必要とされているのだ。しかし、従来の教育を受けてきたデザイナーは、実用的な理論を発案し、検討し、さらに発展させていくことはほとんどできない。

現在、社会科学やエンジニアリングの分野で発見されたことを、デザインの理論や実践に応用するニーズはますます高まっている。デザインは、工芸品を作ることに注力してきた従来の役割を拡大して、サービスや顧客体験(エクスペリエンス)の開発や持続可能性、健康、教育の改善にも広がっている。昔のデザイナーは、外観、機能、物の材質、美学を教育させられてきた。しかし今、最も重視されるのは文化と、人の感情だ。加えて、社会問題、交渉の細やかなスキルや、世の中の相互依存した複雑な仕組みへの知識が重要とされる。こうしてデザイン教育は、変化の時を迎えているのだ。

しかし、その変化の根拠となる理論は、どの分野からもたらされるのだろうか。これまではデザインの原則に対する科学的な根拠は、他分野に依存してきた。工芸のスキルと磨き上げてきたセンスがあれば、昔なら立派に生き抜いてこれた。かつてのデザイナーは原則として、工業製品のかたちづくりに貢献する立場だったからだ。しかし現在は、人、機械、サービスがそれぞれ複雑に絡み合っているので、昔からの技能を受け継ぐだけでは間に合わない。もっと体系的なアプローチが必要とされる。デザイナー自身が適切な理論を生み出せなければ、他に頼ることになってしまう。

デザイン界は、自ら行動を起こす者と新しいものを作り出す者が築いてきた分野だ。現実世界でヒットする商品やサービスを生み出すには、それぞれ深く追求している専門分野を広く見渡してつなぎ合わせることができる、ゼネラリストの力が必要だ。ゼネラリストは、スペシャリストとの綿密なコラボレーションなくしては成功できない。一方、専門知識の豊富なスペシャリストは、ゼネラリストであるデザイナーの助けがなければ、その知識を効果的なサービスや商品の形にすることができない。

0e78960
各業界の現状詳細

これに対して大学は、スペシャリストが支配する場所だ。結果的に、デザイナーの居場所がなく、スペシャリストの世界に投げ込まれたゼネラリストになってしまうのだ。デザインの指導に当たっている教員の多くは、従来の大学の組織にはうまくなじめない。大学の中ではスペシャリストが幅を利かせて、ゼネラリストは滅びる一方だ。大学組織内で昇進する際の審査は、ほとんど権威ある国際的な機関からの評価に頼っている。つまり間違いなくスペシャリストが重用されるというわけだ。

しかし、人事評価のプロセスを改革し、広範囲な統合や、ものごとをまとめる能力や実績を適切な時に評価することによって、スペシャリストにもゼネラリストにも昇進の道を開くのは難しいことではないはずだ。この変革を実行すれば、工芸の技術と理論の両方を評価し、学生が学ぶ内容の幅も奥行きも拡大させて、私たちが現在直面している多種多様な課題に取り組める人材を育てる、世界規模のプログラムが実現できる。

デザインがその可能性を将来に受け継ぎ、拡大させ、実現させると同時に、未来のリーダーを育成するために、新たなカリキュラムはどうすればいいのか、私たちは思いを巡らせている。私たちがビジョンとして描いている新しいプログラムは、デザインの学習と実践的なコースとを融合させたものだ。デザインの学習では、美しく見事で丹念に作られたデザインについて、その芸術と技能を学ぶ。一方、実践的なコースには、社会科学、生物科学、テクノロジー、数学、統計学に加えて、実験的な理論と厳格な論証を理解するコースも含まれる。今日の製品制作の世界では、プログラミングとメカトロニクスが必須スキルとなっている。私たちのプログラムは、実務の技能だけでなく次世代のデザイナーに必要な知識も身に着けさせるものだ。現在のデザインが要求する、強固で厳格な理論の構築にも取り組める力をつけてもらうのが狙いだ。

デザインは刺激的でエネルギーにあふれる世界であり、前途有望だ。21世紀の課題に向き合うには、デザインもデザイン教育も変わらなければならない。大学もまた同様だ。


この業界に関する知見に興味がある方は、私たちが運営しているDesignチャンネルをフォローしてください。

本稿は、デザイン業界の現状と将来を分析する「LinkedIn Influencers」シリーズの中の一編です。シリーズ記事の全編はここからご覧ください。

本稿は当初、2014年3月24日に、SNSサイトのLinkedInに投稿されたものです。

本稿のポルトガル語訳は以下から参照できます: Revista Brasileira de Design. Reportório

写真:Northwestern大学のFord Design Centerで勉学に励む学生たち(Don Normanの承認を受けて掲載)