事業成功に求められる「グロース・エンゲージメント・マネタイズ」の三位一体

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心理学とテクノロジー、経営学を中心に執筆、教授活動を行っているコンサルタント。
Hooked: ハマるしかけ』著者。

儲ける目的で事業を始める人はよっぽど計算が苦手か単純に妄想に取りつかれているだけなのではないか。統計的に見ると、大金が稼げる確率はゼロもしくは限りなくゼロに近いと言える。

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スタートアップの92%は3年以内に破綻してしまう。Apple App Storeにあるアプリの1%のみが財政的な成功を収めている。ベンチャー企業を立ち上げる資金を集めることができたとしても、75%は利益を出せず、投資家の資本を返すことができないのだ。

なぜ100万ものユーザーを獲得できる会社がある一方で、全く無名のまま終わってしまう会社があるのだろう。Facebookのような会社が急速な成功を成し遂げられた理由や、動画用のアプリを製作していたViddyのようなスタートアップの会社が何百万ものユーザーの獲得や何百万もの資金の調達ができたのにも関わらず失敗に終わってしまった理由は何なのだろうか。

スタートアップ成功のための特効薬は存在しない。しかし、英国の統計学者George Boxも書いているように「すべてのモデルが間違っている。しかし、中には役に立つものがある」。

新しい事業の運営で最も難しいことは、何を優先するかだ。何百もの決断をしなければならない上に、何が重要で何が重要ではないか区別をしなければならない課題に常に直面する。しかし、チームが目標を見失わないようにするために、役に立つモデルがある。それはGEM(グロース、エンゲージメント、マネタイズ)の枠組みである。フレームワークの起源は不明だが、LinkedInの起業当初に同様のモデルが初めて使用されたと聞いたことがある。

企業の仕事は、顧客、従業員、株主に価値を継続して提供できる方法を見つけ出すことだ。 これを実現するため企業は、GEMのグロース、エンゲージメント、マネタイズを見据える必要がある。

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グロース、エンゲージメント、そしてマネタイズはヒットするプロダクトの3本柱だ

1.グロース

グロースとは企業がどのように新規ユーザーや新規顧客を開拓していくのかに他ならない。基本的に、提供できるものを情報として必要とする人々の前に提示できるかどうかなのである。このようなメッセージを「外的トリガー」と個人的に呼んでいる。外的トリガーは、テレビコマーシャルや営業マン、メールや口コミなど異なる手段で発信される。

プロダクトに満足した顧客が別の人にその旨伝える口コミのような外部トリガーは無料で宣伝ができる。その一方、Googleやビルボードでの広告掲示には多額の費用がかかる。

外的トリガーに甲乙をつけるのは難しい。問題はどの方法が事業形態に適しているかだ。急速な成長は素晴らしいことだが、コントロールと維持が困難である。メディアを活用した宣伝はある程度顧客の興味を引き付け続けることはできるが、費用がかかる。グロースに対して考えなければならないのは、「提供しているプロダクトがそれを必要としている人々に興味をもってもらえているか」なのである。これに対して、定量化した答えを出すことが、一定の期間の新規ユーザーや新規顧客の獲得数の推移を把握することになり、さらにはユーザーや顧客の興味を引くためにかかった費用を把握することにもなるのだ。

グロースを最終状態と捉えるのではなく、過程であり活動であることと認識することが重要だ。独自のグロース戦略に満足している会社は顧客を競合相手に取られてしまう恐れがある。グロースハッカー(ユーザー獲得やサービスグロースを施策実行する人やチームのこと)は、必死になって新しい販売網を探し、潜在顧客がどれくらい見つけられるか、そしてどれくらいの費用がかかるかを絶えず検証している。

グロースのポイント
「プロダクトを必要としている人々の関心を獲得する方法は改善できているのか?」

グロースの指標
新規ユーザーまたは新規顧客の数や獲得する際に費やした費用

2.エンゲージメント

プロダクトやサービスによっては顧客エンゲージメントが発生しない場合がある。例えば、不動産の購入や旅行の予約だ。その他の業種においては、生き残るためにある一定の習慣的エンゲージメントを必要とする。FacebookやSlack、Salesforce、Snapchatなどのアプリにおいては、使用することが習慣にならないとビジネスとして成り立たないのだ。これらのサービスが常用されるようでないと、便利なものとはいえず、そのうち全く使用されなくなってしまう。

顧客をつなぎ留めることは、顧客エンゲージメントを意味し、アプリのチェックであろうとアプリを使用した買い物であろうと、使用し続けてもらうことだ。ビジネスによっては、他のビジネスよりも顧客エンゲージメントの繰り返しに依存している場合がある。しかし、投資家や会社の創業者、従業員にとって重要なのは、顧客はどうすれば常連客になってくれるのかである。

エンゲージメントの傾向を把握するためには、顧客がプロダクトやサービスを使用する頻度を算出し「常連客」の定義付けが必要だ。プロダクトによっては、年に1回の使用頻度のものがあれば、1時間に1回のものもあるだろう。ここで問うべきことは、「提供しているプロダクトがそれを必要としている人々をつなぎ留めておく方法を改善できているのか」である。この質問に対する答えは常連客の増加を算出することによって出せる。

エンゲージメントのポイント
「提供しているプロダクトがそれを必要としている人々をつなぎ留めておく方法を改善できているのか?」

エンゲージメントの指標
常連ユーザーや常連客の割合

3.マネタイズ

最後に会社は提供する価値を収益という形に変えられなければ、ビジネスとして成り立たない。価値を捉える方法は数多くある。会社は登録料を請求することができれば、スポット購入を提供することもできる。また、売り手と買い手が取引できるマーケットプレイスを作成することもできる。

マネタイズにおいて問うべきことは「提供しているプロダクトを必要としている人々のエンゲージメントする方法を改善することができているのか」である。ここでの測定基準は利益になる。しかし、重要なのは会社の業績だけでなく、プロダクトに対する未開拓の需要を把握することである。これこそ企業が引き続き生き残れるのかを想定する唯一の方法であり、さらに将来的にどれくらいの規模にまで拡大できるかの賭けの材料にものなるのだ。

スタートアップはここで「ラッキー」となる場合がある。能力、勤勉さ、過程などがユーザーの拡大とプロダクトに対するエンゲージメントを促進する一方で、将来の市場を予測することは非常に厳しいのだ。あまりにも厳しいため、賢くなることが実際には不利になることがある。

賢い人は産業レポートやモデルの設計、計算などに基づいて将来の市場の予測を試みる。しかし、同じような情報を持つ人々は同じような結論に達する。そのため、正しい答えを出すだけではダメなのだ。逆説的ではあるが、自分が正しく、周りの賛同を得られるということは、競合相手も同様に考えることができ、ビジネスチャンスとして捉え市場に参入し、利益を横取りされてしまうことなのだ。

そのためにも、長期的にマネタイズを実現するには、他とは異なる市場の未来を見る必要がある。そして、未開拓の市場を確認できたら、Warren Buffetの助言どおり、「侵略を防ぐ堀」で守る必要があるのだ。競合相手からその市場を守る方法は、規模の経済性、ネットワーク効果、規制による保護、ブランド、および習慣の5つしかない。

見える大規模な市場や市場を守る術がない限り、未来の利益を確実なものにすることはできない。

マネタイズのポイント
「作り出している価値を保持する方法を改善できているのか?」

マネタイズの指標
利益

求められる三位一体

グロース、エンゲージメント、マネタイズには因果関係が存在し、単独では十分に発揮できない。

サービスにお金を出さない少数のユーザーにのみ使用される、エンゲージメント性の高い、使用を習慣化するプロダクトはヒットしない。App Storeの圧倒的多数のアプリがクリティカルマスを達成できなかった理由は、作成した企業が利益を生めるだけの数のユーザーの興味を引くことができなかったからなのだ。

同じように、成長を維持し収益を出す方法がなければ、急速はハッキングを使用した成長戦略は意味を成さない。動画共有サービスを提供するViddyとその後継者であるSnapchatは、月に約300万ユーザーの獲得を実現し、2012年の春、シリコンバレーに衝撃を与えた。しかし、投資家によって会社に3000万ドル出資された後、穴の開いたバケツのように、アプリはユーザーをつなぎ留めておくことができないことが明らかになった。

最終的に大規模な市場の見込みがあっても、収益を上げながら顧客を獲得する術、つなぎ留めておく術がなければ意味がない。例えば、音楽のストリーミングサービスを提供するSpotifyやPandoraは何百万ユーザーによって毎日のように利用されている。しかし、音楽の著作権所有側によって厳しい条件を提示されために、サービスの価値がなくなってしまえば、サービス自体が存続できなくなる。

もちろん他にも事業運営上、懸念しなければならないことはたくさんある(分析の詳細については、Alex Osterwalderのビジネスモデルキャンバスを参照)。しかし、チームが目標を見失わないようにするためには、GEMの枠組みの活用が非常に効果的である。

Redpoint VenturesのパートナーであるTomasz Tunguzが言うように、この3つの要素があれば「正しく資源の割り当てができているか確認することができる」のだ。GEMの枠組みは、重要なものを監視しそれについて意識合わせをする際に貴重となる。