カスタマージャーニーマップの作り方

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エクスペリエンスマップがここ数年で注目を集めるようになったのは、企業がクロスチャネル体験の相関性に気づき始めたことが大きな要因だ。時間と空間におけるサービスの接点を統括するために、エクスペリエンスマップによる洞察の有用性が高まっているのだ。

しかし良い参考資料はまだまだ足りないようだ。事例を聞かれたときに薦められるのは、2年も前にアップされたnFormのマップだけだ。とはいえ、事例の少なさに対してその重要度ははるかに高いのだ。

良いエクスペリエンスマップの定義をよく尋ねられる。あるものをエクスペリエンスマップと呼ぶとしても、UXのタブー語として茶化す人もいるかもしれない。しかし実際、それはひとつのモデル、ステロイドのモデルだ。プロダクトやサービスを通じたある人の一連の体験を可視化するものなのだ。

しかし旅の過程を描き出すだけではない(それならただの旅行マップだ)。また、システムがどう動くかを確かめ、実行し維持できるよう細部まで見せるサービスの青写真でもない。


Rail Europeエクスペリエンスマップ 拡大版の表示/ダウンロード

これはRail Europe, Inc.の総合的な発案の一部だ。この企業は、北米からヨーロッパに行く旅行者たちが、いくつものwebサイトを見て回ることなく、ひとつのサイトで列車の乗車券やパスを予約できるサービスのアメリカ地区ディストリビュータだ。既に優れたwebサイトと、受賞経歴もあるコンタクトセンターを展開していたが、全ての接点に渡る顧客の体験を、より良く取り扱いたいと考えていた。それが可能になれば、予算と、デザインや技術のリソースをどこに集中させるべきかがはっきりと分かるからだ。この総合的な”診断”評価(マップはその一部に過ぎない)から導き出されたのは、多くの集中的な戦略を促す助言だった。エクスペリエンスマップは、顧客のRail Europeとの時間的、空間的接点におけるインタラクションについて、顧客の気持ちに沿った理解を形成する一助になったのだ。

2つのカギとなる条件

私は、エクスペリエンスマップを有効活用するために5つの重要な要素を適用しているが、その際2つのカギとなる条件がある。1つはそのマップだけで完結していること。つまり、組織内で回覧することができ、また説明や要約や評価を必要としないということだ。他でも見受けられるが、私たちはエクスペリエンスマップを5フィートを超えるくらいの大きなサイズで作る。それらは良い点、悪い点両方のエクスペリエンスとコンセンサスを共有できる参照元を生み出していくのだ。

2つ目は、アクション、理想としてはデザインにつながるツールであるということ。そのマップを作るだけで終わらないということだ。良いエクスペリエンスマップは起爆剤のようなもので、結論ではないのだ。

重要な5つの要素

この5要素に飛び込む前に、もうひとつ指摘したい点がある。マップ作成を促す活動だ。マップを意味のある方法で形にするためには、質的そして量的な情報が必要となる。Rail Europeの場合は、私たちはアンケートを実施し2,500件以上の回答を集めた。また、Rail Europeの顧客にフィールド調査も行った。

一連の体験に多数の接点がある場合、マップにおいて全ての接点を強調することは難しくなる。全てを強調しようとすると、焦点がぼけ、マップの意味が失われてしまうだろう。そのような状況を避けるため、私たちは接点のリスト化から始める。顧客がプロダクトやサービスと接する点を、大から小まで全て洗い出して一覧にするのだ。ひとつひとつがどう関係するかをここでは突き詰めず、ある程度理論的にグループ化だけしておいて、各接点やフェイズが持つ性質は確定しないでおく。


Rail Europe総合接点リスト 拡大版の表示/ダウンロード

リサーチの統合を始めたら、その考察を、接点一覧にある重要、補完的、不必要な接点にマッチングさせればいいのだ。こういった土台ができると、マップはレンズ、モデル、質的考察、量的情報、適用の5要素になる。


右上からレンズ、モデル、質的考察、量的情報、適用

1. レンズ

「レンズ」はそれを通して一連の体験を見る、他の視点よりも優先されるフィルターだ。もしあなたが明確に複数の人格か、複数の道を選ぶユーザタイプを備えているなら、レンズはある人格の要約になるだろう。その場合、それぞれの人格に対して複数のマップを作成することになる。しかし、エクスペリエンスの中核(そしてマップ上で取り上げられている、チャンスと不都合のポイント)は同じだ。なぜならそれぞれの人格に適用された接点の核に焦点を当てる場合、レンズが、デザインルールや価値命題のような、核となる原則になり得るからだ。だから、各ステップの中の接点を見て、自問してほしい。「これは原則に沿うだろうか」、「これは人格のニーズに合うだろうか」と。あなたはあるタイプの基準 — 人格、価値命題やルール — にとらわれずに一連の体験を見たいのだ、ということがカギとなる。

2. モデル

私は、描き出された行動を「モデル」と呼ぶ。常に同じに見える必要はないが、全て旅の性質に依存するからだ。つまり、それはさまざまな方法で表現、モデル化ができるということだ。


Rail Europeのモデルにおける1セグメント 拡大版の表示/ダウンロード

それはまた最も重要な側面 — たとえばフェーズからフェーズへの移行や、複数のチャネル間の切り替えを可視化する。ここではTufteの力を借りて、行動をただ順に描き出すだけでなく、自分でモデル化したデータ等を元にそれぞれの行動について何かを証明できるようにしたい。たとえば、ある特定のチャネルを選んで使ったのは何人か、エクスペリエンスの中で明らかに壊れているのはどこか、あるいはエクスペリエンスの中で手薄になっているのはどこか。下のマップ(内部資料として作成)は、Rail Europeの事例と同じ5つの面を持っているが、モデルは異なる。なぜならチャネル間の切り替えは、表現すべき重要な面であるからだ。


このモデルでは、チャネル間の切り替えに焦点を当てている。矢印のサイズや濃淡が切り替えのボリュームに関する量的情報を示している。拡大版の表示/ダウンロード

3. 質的考察

「質的考察」を適用するときは、「行動、思考、感情」フレームワークを頻繁に用いる。「行動」はモデル、「思考」は私はこれを使うか、これは機能するか、この感じは好きだ、といった枠組み、「感情」は、イラ立ち、満足、悲しみそして困惑といったレスポンスを利用することだ。あなたの顧客にとってのある接点の重要性と価値を理解するために大切な要素だ。

4. 量的情報

「量的情報」も極めて重要だが、軽く考えがちだ。実施した調査にはアンケートも含まれているかもしれないが、webのトラフィックレポートから拾っただけ、ということもあるだろう。理想は、量的情報から段階を解明することだ。あるときは、各ステップにおける特定のパートを強調するために使われるかもしれない(この接点に出会うのはたった10%、一方あの接点は70%)。また別のときには、特にアンケートの結果、接点そのものについて、ということもあるだろう。Rail Europeの場合は、アンケートを行い、3つの実に説得力のあるデータ所見を得ることができた。一連の体験における特定のフェーズの快適性、そのフェーズに対するRail Europeの妥当性(例えば、Rail Europeは予約の時点では重要だが、旅行の後は重要ではない)、またあるフェーズにおいてRail Europeがどの程度有用だと考えられているか、というデータだ。この結果、ギャップが明確になり、妥当性と有用性の間の良い配置バランスが示された。


Rail Europeエクスペリエンスマップの量的情報


量的情報を矢印の濃淡で統合し、ある接点におけるチャネルの切り替えのボリュームを示している

しかしデータは、各フェーズやステップにおける快適性レベルを表示するスパークライン、あるいは利用レベル、トラフィックなど何にでも加工し得る。このマップ上の全てについて言えるが、重要な面を網羅している限り、それらの表現方法は、コンテクストの違いによって変わり得るのだ。上の2番目の事例では、量的情報は矢印の濃淡で表され、ある接点においてどれだけの数のチャネル切り替えが起こっているかを伝えている。

5. 適用

マップは結論ではなく起爆剤であるべきなので、「適用」で各ステップを解明し、チャンスと不便な点、アクションの起点を定義し、次のデザインや戦略のフェーズを推し進める。これは、戦略の動機づけや戦略的デザインなど、次のステップが何であるかによる。

まとめ

エクスペリエンスマップの活用はマルチチャネル、クロスチャネル体験に限らない。要は、時間軸における複数の接点を統合するツールだ。そしてエクスペリエンスマップの作成方法に唯一の正解はない。全てにおいてコンテクストが重要であり、あなたのニーズによっては何か似たようなことをせざるを得ないかもしれないし、違うかもしれない。私はプロジェクトにおいて同じセット、連続の方法論やプロセスを使うことは滅多にない。なぜならどの案件が抱えるチャレンジもユニークだからだ。しかしこの一連のガイドラインはどのような時にエクスペリエンスマップを使うべきか、そこから何を得るか、どのように全体のリサーチ、デザインプロセスに適合させるかを見極めるのに役立っている。