ストーリーマップのつくりかた(後編)

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プロダクト開発において、ユーザーのストーリーの一つ一つを集め、予想し、問題解決を行い、最適化することが重要となる。その初期段階で有効な「ストーリーマップ」のつくりかたを、ヘルスケアアプリを例に考えよう(後編)。

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ストーリーマップのつくりかた(前編)

ステップごとに仮説を書き出す

新しいサインアップのフローがどんな役目を果たすようにするかを決めるため、まず一連のストーリーに当てはめて考えることにした。昨日、リードデザイナーとエンジニアは、すぐにスクリーン上のUIの概要とフローチャートを作りたいと言い、CEOは全てクリッカブルなプロトタイプを見たいと言ってきた。しかし、私がいつもチームや学生に伝えているように、ストーリーマップを作ることから始めることにした。チーム全体で、再設計したサインアップフローの仮説を一つ一つホワイトボードに書き出したのだ(図5-20)。

Photo of a story map (sticky notes arranged on a board, with hand-drawn graphics surrounding them).
図5-20 類似プロジェクトのストーリーマップ。
ストーリーラインが一番上に、要件は下に書かれている。

これは、新規ユーザーや潜在ユーザーがプロダクトを使用する際に、最初のステップで体験すると思われるストーリーを示したものだ(図5-21)。ここから分かるように、できるだけ今までと同じように保ち、そうすることで機能する部分としない部分を見つけ出し、解決しようとした。

  1. 導入
    潜在ユーザーは、自分が学んだり、誰かにトレーニングしたりすることに興味を持っている。(前回と同じ)。

  2. 気持ちを駆り立てるきっかけ
    「トレーニング開始」ボタンを見て、トレーニングを開始する。(前回と同じ)。

  3. アクション
    ユーザー名とパスワードを入力する(このステップは非常にパフォーマンスが良いため、このまま維持する)。
    トレーニングプランを構築する。トピックを「フォロー」する代わりに、いくつかの質問に答えるようにする。そうすることでシステムがカスタマイズしたトレーニングプランを構築することができる。質問の数が多く、この設定は最終的に15スクリーンまで及ぶこととなる。なんと15スクリーンだ。この甚だしい愚行に対応するメソッドが存在する。現在では質問の数がさらに増えているが、問題が先に進み、スクリーンを経るたびに人々を引きつけ、関連性が強められるようになっている。最初は一般的な質問から始まり、先に進むにつれてより適切で個人的だと感じられる質問に絞られていくのだ。アクションを起こさせる一連の質問をデザインすることで、飽きと価値の欠如という2つの危機を回避できるだろう。

  4. リスク
    ユーザーが答える質問の最後の方に、このトレーニングプランを使いたいのは他の誰かと一緒にトレーニングするためか、または他の誰かをトレーニングするためか、という質問がある。もしそうならば、その場で他の人をプランに加えることが可能だ。異なる場合も問題はない。このステップはスキップできるし、あとでいつでも他の人を加えることができる。

  5. 最終局面/決断
    ユーザーは個別にカスタマイズされたトレーニングプランを手に入れる。私たちにとってここは、ユーザーに新しいトレーニングプランの価値を体験させたいと思うポイントだ。ユーザーは、手に入れたトレーニングプランを継続した場合、どんな効果を得られるかというグラフを見ることができる。

  6. 破綻する行動
    そしてどうなるのか。プランを手に入れて、FitCounterを使った場合の効果を見たあとに、ユーザーはどう行動するだろうか。ユーザーが実際にトレーニングを始めなければ、このストーリーは完成しない。ということは…。

  7. 完了
    ユーザーが家に帰る。トレーニングは始められる状態だ。最初は、ビデオを見て、簡単なエクササイズを行い、結果を記録するのだ。ユーザーは、どんなふうに行動を指示され、それを行い、フィードバックを受けるのかということを、質問のフローの中で経験した。この段階では、マウスをクリックするだけではなく、実際に体を使って体験できる。腹筋が何回できるかという質問の答えを伝える代わりに、腹筋の効果的なやりかたを説明する短いビデオを見て、エクササイズを行い、結果を記録する。1ステップでトレーニングの目標を完全に達成することは人間の身体的に不可能であったとしても、このストーリーを完了まで達成することで、自分の目標に最終的にたどり着ける、という気持ちがずっと強くなる。ユーザーがプロダクトを継続的に使用し、この結果がユーザーの次のストーリーのティザーとして機能してほしいと思う。このストーリーが、連続したストーリーの一部になってほしい。これは時間をかけて続けることで、どんどん良くなっていくのだ。

私たちは、この使い方のストーリーのプロットを考えてから、予定表とプロジェクトプランを計画し、ブレインストーミングと要件の優先順位付けをするために一連のプランニングセッションを開いた。要件を具体化し、それからスクリーン、コミック、ストーリーボードの概略を考え、社内で、または潜在ユーザーと対面してフローのロールプレーを行った。このような活動をアイデア出しの段階やプロトタイプで行い、全てを対象に、全ステップでテストを行うことで、リスクを最小化し、正しい方向に進んでいるかどうかを確認することができた。

私たちが、ストーリー構造のサインアップフローを新しく作ったことは誇らしいことだ。しかし、それを祝う前に、その働きを確認しなければならない。

ストーリーマップの効果

このプロジェクトでも、以降の全プロジェクトでも、私たちは全てをテストした。コンセプトのストーリー、元のストーリー、さらに、その間や後に来るあらゆるストーリーをテストしたのだ。サインアップフローの新しい使い方のストーリーを考える前にやってきたことには、全てに自信を持ってはいたが、それでもテストを行った。何度も繰り返した。デザインの際、また対面でのテストを行った際、自分たちの進んでいる道が正しいのだと実感した。サインアップフローの狙い通りのポイントで、「いいね、すごく 便利そうだ」といったコメントを聞けるようになってきたからだ。

対面テストでこのようなコメントをくれる人が3人、4人、そして5人と出てくると、私たちはMVPを取ったかのような気持ちになってきた。単にそこから学ぶだけでなく、良いことを学んでいるのだと感じた。コンセプトのテストでは、自分たちはユーザーが使いたいと思うプロダクトを持っているのだと思った。原点のストーリー、またそれ以降のテストでは、データがそのストーリーを裏付けていることが分かった。そして、使い方のストーリーを練り上げた今、私たちが持っているのは、単に使うことができるプロダクトではなく、ユーザーが使いたいと望むプロダクトだと言える。すごく使いたくなるプロダクトだ。

Arc representing the progression of events in a usage story
図5-21 FitCounterの最初のステップで新規ユーザーに体験してほしかったストーリー
1. 体を鍛えて、絞った体を保ちたい
2. 体を鍛えるのも、体型を維持するのも大変だ
3. アカウントを作成する
4. プランを組み立てるための質問に答える
5. 1人でやろうか? 誰かと一緒にやろうか?
6. 個別にカスタマイズされたプランを手に入れる
7. 家に帰る
8. トレーニングを開始する

対面テスト中、この計画どおりのリアクションが返ってきた。フローの最後にさしかかり、トレーニングプランを受け取ったところで、自発的に反応してくれるのだ。予想外だったのは、プランを受け取った人が新たなホーム画面に行くと、いろいろなところをタップやクリックし始めることだった。本当にたくさんクリックしていた。さらに彼らは、新しいことを学んでどんなに驚いたかをずっと口にしていた。そして、単にビデオを見るだけでなく、自分も何かをするのだ。例えばビデオをシェアしたり、プランを追加したり抜いたりといったことを。

しかしこれはすべて対面での場合だ。問題は、この新しいサインアップフローとそれに付随するプロダクトをローンチした時にどうだったかだ。この時点では、新しいフローはまだ公にはされていなかった。そしてデザインの見直しは、私たちの誰もが恐れていたことであり、それでいてやらなければならないことだった。

何かがよからぬ方向に進んだと言えたらと思う。そうやってこのストーリーに危機を感じる瞬間を与えることで、緊張感を保った素晴らしい時間を作れるだろう。

しかし、ローンチは成功した。

このストーリーは対面テストの時だけでなく、ローンチ後、幅広い利用者の反響を呼んだ。新しいサインアップフローになってから、新規ユーザーがサインアップを完了してくれる割合がほぼ2倍になったほどだ。これは素晴らしいことだ。そしてこの数字は、さらに繰り返し改善を続けていけば、どこかの時点でさらなる改善が見込めるものだと思った。それに、新規ユーザーのエンゲージメント率も2倍近くに上った。ストーリー性のあるサインアップフローを作成することで新規ユーザーのエンゲージメント率が上がることを期待していたら、本当に効果があった。私たちのプロダクトは、ユーザーが目的を達成する助けとなるだけでなく、企業が新たなユーザーを魅了するという目的を達成するのにも役立つものだった。予想外に早い段階で変化が現れて驚いたのが、副産物、つまり質の高い契約が増えたことだ。獲得した新規ユーザーは、プロダクトを使うためにお金を払う傾向が強かった。その差、10倍といったところか。

私たちはこの結果に歓喜した。有頂天だ、今のところは。

ただし企業は初回の利用や契約だけではやっていけない。自分たちが構築したプロダクトに誇りを持っていたし、結果は得られたが、これは使い方のストーリーの1つに過ぎない。最初にどう使うかというストーリーだけだ。残りはどうなる? 新たなストーリーの幕開けにふさわしい、気持ちを奮い立たせる出来事は、次は一体何だろう。次の発端、中盤、そして結末は、どんなものになるだろう。その後は? ユーザーがプロダクトから離れてしまったら? 数分、もしくは数日、数ヵ月、数年といった期間続くフローの中で、ユーザーが脱落するような展開が生まれる可能性もあるのだ。長い間、私たちは大小のストーリーを創り上げてきた。時にそれは1回限りのものだったり、定期的に続くものだったりした。様々なストーリーを、ユーザーと企業、両者のために改善してきた。ストーリー優先の構築を始めてから、FitCounterは規模を3倍に拡大し、評価も3倍良くなった。今や利益の出るビジネスになり、最近では、非公開ではあるが、また別の資金調達に成功し、この成長を続けようとしている。