原点はメキシコ貧困地域で湧きおこった「感動」 — Life Space UX 谷村氏インタビュー

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Life Space UX」はソニーが新たな体験を提案する新しいコンセプトだ。そのUXの原点はメキシコ貧困地域での対話にあったという。ソニー株式会社TS事業準備室シニアコンスーマーエクスペリエンスプロデューサーの谷村秀樹氏に伺った。


「ポータブル超短焦点プロジェクター」
小型サイズながらバッテリーとスピーカーを内蔵し、生活の中の新しい映像と音楽の楽しみ方を提案


「グラスサウンドスピーカー」
温かい光と透明な音でリラックス空間を演出

—— ソニーが「Life Space UX」に取り組み始めた理由はなんでしょうか?

多くの製品開発では、どうしても製品ありきの開発/デザインになってしまいます。しかし、既存の常識を打ち破らないと新しい発想が生まれないため、「お客様の体験自体からデザインを考えて、商品に落とし込むこと」に、このTS事業準備室が挑戦することになりました。

そこでお客様のファーストプレイスと呼ばれる「居住空間」で新しい体験をデザインするというテーマを決め、商品ベースではなくその体験のプロセスのデザインをつくろうという所からはじまりました。

—— まずコンセプトがあり、その時点ではどのような機器を作るかは決まっていなかったということですね。

そうですね。開発の初期段階では、まず空間を活用するというところに意識を向けました。居住空間をイメージして、存在を引き立たせずに口金や天井からどんなことができるんだろうと考えていました。

—— 「空間に馴染ませる」という意味では、プロジェクターの「光」やスピーカーの「音」といった要素にたどり着くのはすごく納得できます。

テーマとしては「光、音、映像」という三本柱があり、そこからの広げ方や、新たな要素を見つけるということも含め、「居住空間全体のプロデュース」を今後さらに追求していきたいと思っています。

—— リビング・モティーフでの展示では、たしかにトータルで実際の居住空間をイメージできるような展示でした。

お客様の実際の居住空間が想起できるような場所であることをまずプライオリティーとして展示しました。その上で、機器によって家具のレイアウトが依存してしまうのではなく、生活者が作った居心地の良い雰囲気はキープしたまま、機器自体が生活者に合わせてくれるというイメージを伝えたいと考えています。

—— 実際に発売されてからもすごく話題になっているようですが、いかがですか?

SNSなどでは「ひさびさに震えがきた!」「こういう商品が欲しかった!」という熱いコメントを多く頂いています。

—— 「昔のソニーがもどってきた!」というコメントもありましたね。

もともと弊社では社員が本業と並行して別の新しいアイデアを考えて生みだしていく文化があったわけですが、それをスピード感をもって形にしていこうとして立ち上がった組織がこのTS事業準備室になります。ミッションとして、まだ社内の中だけにある技術・アイデアの出口を今後も作っていきたいと考えています。

—— ご自身のエピソードも伺いたいのですが、谷村さんにとって、UXという言葉からどんなことをイメージされますか?

エピソードとして思い出すのが、昔、カメラの海外マーケティングでメキシコにいた時のことです。現地ではよくホームビジットとして生活者にインタビューをしたりするのですが、ある日「Eクラス」と呼ばれる危険地帯の村の家を訪ねたことがありました。そこには家自体はなくて、バリケードとトタン板を立てて、青年団みたいな人たちが門で見張りをしてる場所だったんです。雨漏りはするし中も砂利で、住人は裸足で生活していました。両親は1日中バスの中でキャンディーを売って月に数千円程度の収入しかないのですが、メキシコは音楽と生活が密接してるから、そういう地帯の家でもテレビとオーディオを絶対持っているんです。子供は上の子が14歳くらいの兄弟で、みんなすごく明るい家族でした。

色々話しを聞かせてもらってる中で、彼らが持ってる写真を見せてもらうと、子供が小さい頃に撮った3~4枚だけの黄ばんだ写真しかなくて、それが彼らの思い出の全てだったんですね。そこで最後に記念撮影をして、フォトフレームで写真を見せてあげたんですが、その瞬間みんなが号泣し始めたんです。家の外に出て、近所の人たちも呼んできて、みんな感動している。人々の暮らしが感動とともに完全に変わった瞬間を目の当たりにしました。その時の光景は今まで生きてきた中でも強烈に覚えていて、私にとってはUXを考えるうえでの原点ですね。

—— それは素晴らしいお話です。UXではユーザーインタビューの重要性がしばしば語られますが、ここまでリアルにユーザーの根底に触れるようなお話は初めて伺いました。そのエピソードを踏まえて、谷村さんにとってずばりUXとは何でしょうか?

人々の暮らしを大きく変える「感動価値」です。「Life Space UX」でも究極的にはそこを目指したいと考えています。

谷村秀樹 | HIDEKI TANIMURA
ソニー株式会社
TS事業準備室
シニアコンスーマーエクスペリエンスプロデューサー

1998年: ソニー入社、物流部門に配属。事業所サプライチェーンの構築や船会社/エアフォワーダーとの貨物運賃交渉に従事。2002年: 海外マーケティング担当としてデジタルイメージング製品(カメラなど) の日本/アジア/中南米での販売拡大業務を行う。2006年: Sony Europe (UK)に赴任。ロシアを含む欧州全域でのデジタルカメラ(サイバーショット)の販売拡大に努める。2010年: Sony Comercio de Mexicoに異動。デジタルイメージング製品のマーケティング統括として、メキシコでのソニーのデジタルイメージング製品のマーケットシェアを一位にすることに貢献。2013年: 日本帰任 UX Marketing部門にてXperia、関連アクセサリーの販売拡大業務を行う。2015年: TS事業準備室に異動。企画マーケティング統括。