UXとはワイヤーフレームだけではない

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UXという言葉がバズワードとなり、その定義が曖昧になってしまっている。本来意味する「ユーザーエクスペリエンス」とは、表面的なデザインやワイヤーフレームではなく、ユーザーに生じる実に様々な知覚や反応であるのだ。

会話の中で、オリジナルのコンテキストから発展し、単一の定義を持たない略語を使っている場合がある。「ユーザーエクスペリエンス」の略語「UX」がまさにそのケースだが、問題はUXがバズワードになってしまったことだ。UXチームに対応を依頼する一般的な内容を全て包括した便利な言葉になってしまっている。UXが他の言葉の代わりに使われているのをよく耳にするだろう。例えば、ユーザービリティと言うべきところで「UXテストをする必要がある」という言い方をしたり、ユーザー中心設計を「UXデザインプロセス」と言ったり、ワイヤーフレームと言う代わりに「いつUXを見れる?」なんて言ったりする。しかし、「UX」を「ユーザーエクスペリエンス」に置き換えると、ここで挙げた例は成立しない。ユーザービリティやワイヤーフレームよりもプロダクトやサービスの使用経験に強く結びつくUXの概念は失われた。そして、これはUXを本当に理解し、改善していくいい機会である。

ユーザーエクスペリエンスの定義

ISO規格による「ユーザーエクスペリエンス」の定義が興味深い。それは、私自身が考えるUXの意味に非常に近い内容となっている。インタラクティブ・システムの人間中心設計のプロセスに関する国際規格ISO 9241 210によるとユーザーエクスペリエンスは「プロダクト、システムまたはサービスを使用し、または使用しようとし、その結果として人に生じる知覚や反応」と定義されている。

更に、続けて以下のように追記されている。

ユーザーエクスペリエンスには、使用前、使用中、使用後に生じる、全てのユーザーの感情、信念、嗜好、知覚、肉体と精神の反応、挙動、成果が含まれる。

この定義からすると、ユーザーエクスペリエンスが、一般的なUXの包括範囲を超えて、複数の要因から影響を受けていることは明らかだ。

どれくらいの範囲に及ぶかを示すため、映画のストリーミングサービスを例として考えてみよう。デザイン以外で、このサービスのユーザーエクスペリエンスに影響を与えると思われる要因は以下のとおりだ。

期待

どのように、サービスをユーザーの先入観と照らし合わせるか。ユーザーの先入観は、マーケティング、広告、価格、ブランドアイデンティティーといった内的な力だけでなく、口コミや競合サービスの使用経験など外的な力も含んで形成されている。

技術

サービスに期待される内容を提供できる技術力があるか。ストリーミングの質はユーザーが使う60インチのテレビに耐えうるか。ユーザーの接続環境に合っているか。ユーザーのプラットフォームで利用できるか。停電やバグがサービスに影響を与えないか。

コンテンツ

ユーザーが望むコンテンツになっているか。最新の大作から80年代のおすすめB級SF映画までそろっているか。規制による妨げはないか。インターフェースのコンテンツはどうか。使いやすい表現になっていて、それでも映画を認識しやすいままになっているか。広告がサービスにアクセスする邪魔になっていないか。

カスタマーサービス

営業時間外でも、数分以内に問題を解決できるか。もしくは、営業スタッフが不足していたり、研修中だったり、連絡が取れにくかったりしないか。

コンテキスト

ユーザーは、使用に不向きな環境、または意図されていない方法で、サービスを使おうとしていないか。スクリーンが割れているスマートフォンを使い、明るい照明の下、3G回線で映画を見ようとするユーザーもいるかもしれない。

あらゆる所に存在するユーザーエクスペリエンス

上のリストにある要因は、認識されている「UX」の領域からは影響を受けない。ビジネスコントロールの中にさえ入らないものもある。しかし、ユーザーエクスペリエンスの一部であることは明らかだ。UXという言葉に期待される成果(ユーザーエクスペリエンスを定義し管理すること)と、実際に付託される内容(ユーザーがデジタルインターフェースと対話する方法を定義する)は相違している。

ユーザーエクスペリエンスの持つ広範な意味に到達するには、各チームごとに、自分たちの決定が、どのようにプロダクトのユーザーエクスペリエンスに影響を与えるかをよく考えなければいけない。現在のスクリーンやプロセスに与える、明確で直接的な影響だけでなく、どこか別の場所に生じるわずかな影響についても注意するべきだ。これによって、どんな期待が形成されるだろうか。また、他の場所で形成されたユーザーの期待によってどんな影響をうけるだろうか。

では、架空の映画ストリーミングサービスの話に戻ろう。例えば、プロダクトチームがHDストリーミングを導入したいと思っているとする。すると、技術チームは、HDを提供するために、新規のストリーミングサプライヤーを採用し、ユーザーエクスペリエンスチームは、ユーザーがHDの映画を検索できるようインターフェースのデザインを作り直す。更に、マーケティングチームは新サービスが追加され、それによって映画体験が大幅に向上するということを顧客に知らせるためキャンペーンを立ち上げるだろう。各チームが、目標を達成するために全力を尽していて素晴らしいように見える。

ユーザーの1人、マギーがHDのキャンペーンを目にしたとする。彼女は喜んでサービスを利用し始めるが、数カ月も経つと期待が変化してくる。HDは新しいサービスのため、タイトル数が少なく、マギーを少しがっかりさせてしまったのだ。また、マギーがHDのコンテンツを再生しようとすると、かなりのバッファが必要となり、彼女の接続方法には適していなかった。更に、メディアプレイヤーの様子がおかしく、キーボードの制御も効かない。

その場でサービスが改善されない限り、マギーの経験は最悪のものとなる。こうなってしまった原因はいくつか考えられる。

  • マーケティングキャンペーンで、新しいHDサービスを顧客に魅力的に伝えるという目標は達成したが、帯域幅やコンテンツの制限に対する期待を管理していなかった。

  • UXチームは大規模なHD映画の作品集を期待して検索用のインターフェースをデザインしたが、立ち上げ当初の小規模なセレクションにはそぐわなかった。

  • 低画質のストリーミングに戻すには、新しい技術が必要になることを予想していなかった。

  • マギーは古いプレーヤーの機能に頼っていたが、それが新規のサプライヤーを選ぶ時に留意するべき重要な情報だということを技術チームは分かっていなかった。

UXの役割

決定事項は、常に意図しない方法でユーザーエクスペリエンスに影響を与える。UXデザイナーは、最初にユーザーエクスペリエンスの潜在的な問題に気付き、解決策を提案することが多い。実際のところ、私たちは問題解決屋なのだ。しかし、これはデザインが悪いとユーザーエクスペリエンスが悪くなるということではない。逆に考えつくされたデザインが全てを解決するということでもない。ユーザーエクスペリエンスは、各チームで熟考し、責任を持つべきなのだ。

ユーザーエクスペリエンスデザイナーになることは、色々な意味で不可能だ。UXチームは通常、インタラクションデザインや、ビジュアルデザイン、インフォメーションアーキテクチャ、ユーザービリティ、そしてユーザーリサーチを扱っている。UXチームがユーザーエクスペリエンスに影響を与えられるのは、デジタルインターフェースに関わる部分だけだ。

チームとしてのUX(ユーザーエクスペリエンス)の概念は、おそらく今後も存在し続けるだろう(どれだけ私が嫌だと思っているかは関係ない)。しかし、UXという言葉に「ワイヤーフレーム」以上の意味があることを、今、改めて思い出せたのは良かったと思う。