「アプリアシスタント」がヘルスケアに革命を起こす

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心理学とテクノロジー、経営学を中心に執筆、教授活動を行っているコンサルタント。
Hooked: ハマるしかけ』著者。

「アプリアシスタント」とはチャット型のアプリで、ユーザーが航空券などの要望をメッセージ形式で送り、バーチャルアシスタントが提案を回答してくれる仕組みである。検索に時間と手間を省けるため、旅行やヘルスケアなど、幅広い分野で今後のトレンドになる可能性がある。

ここ5年ほど、腸の不調に苦しめられてきた。不調の原因を突き止めようとWebサイトを見て回るのに多大な時間を費やし、多数の治療法や食べ物を試した。病院にも何度も通った。だが、どれも効かない。

しかし最近、ある人に出会ったことで、医者や専門家が決して行うことのできないようなことをやってのける新たな種類のアプリを使い始める機会を得た。

このアプリは私の不調の原因を突き止めるのに役立った。どのように役立ったのかはこれから説明していく。だが、アプリデザインが重要な役割を果たしていたということから、これはヘルスケアに限らず、さまざまな業界において活用できるデザインだということが推測できる。根本的に言えば、このアプリは複雑な問題を解決するための会話を、今までにないほど容易にファシリテートするものだ。

利口な起業家や情報通のデザイナーたちは今後数年間にわたって、このアプリと似たようなテクニックを利用することで、自分たちの顧客とつながり顧客にサービスを提供する方法を、飛躍的に改善していくであろう。

事例1. 旅行代理店アプリ「Pana」

アプリ作成者たちは、電話が何のために存在するのかという基本的な考え方に戻りつつある。電話とは結局コミュニケーションのためのデバイスだ。多くの異なる業界において、「会話による販売」を行ういわゆる「目に見えないアプリ」が出現しつつある。

例を挙げよう。数週間前、私は公園で友人から「Pana(旧称Native)」というアプリについて聞いた。Panaはバーチャルな旅行代理店である。それがどうしたと思うかもしれない。私も最初にこのアプリのアイデアを聞いた時は、同じように思ったということをお伝えしておこう。だが、実際にサービスを使い始めたら、いいところを突いているアプリだということが分かった。

Panaの仕組みはこうだ。毎回、旅行に関わる何かをする必要が出てきた時、Timにその処理をお願いする。実例を示そう。最近、2ヵ国を出入国し複数のエアラインのロイヤリティポイントを利用するという複雑な旅程を組む必要があった。通常、この種の旅行を予約する際には、価格、フライト時間、乗り換えの困難さ、そしてマイレージプログラムを比較するのに何時間も費やす。そうする代わりに、私はアプリを立ち上げ、何が必要かを平易な英語で、つまりテキストでメッセージを送るような感覚で、Timに伝えたのだ。その後、他のことをやっていると、1時間も経つ頃には、Timが探してきたベストな2とおりの旅程についてTimからメッセージが届いた。そこからは、旅程Aと旅程Bのどちらか好きな方を選ぶだけ。選んだら、Timがフライトを予約した。それだけだ。

このアプリではドロップダウンメニューを使う必要がなかったし、何百ものオプションからプランを取捨選択しなくてよかった。それにチケット代を払おうとする段階で30分費やしたあげく、選択したチケットが突然利用不可になるというような思いもしなくてもよかった。不快な思いは一切ない。すべてをTimに任せただけだ。


Panaのインターフェースはメッセージングアプリと似ている

Panaの利用料は1ヵ月25米ドル。旅行代理店が請け負っている仕事をTimがやり遂げられること―つまり、予定のフライトを予約することができなかったら別のフライトを予約するといったことから、座席変更のリクエストを航空会社に伝えるというようなことまで―を考えれば、その金額を払う価値がある。もちろん、実際問題として、Panaがこのビジネスモデルでお金を稼ぐことができるかどうかは、議論の余地があろう。

事例2. ヘルスケアアプリ「Vida」

Panaについて友人と話していると、その場にいた別の女性からヘルスケアの分野で同じアプリを開発していると言った。その後分かったのだが、その女性はVida HealthのCEO、Stephanie Tileniusであった。Stephanieは自身の会社のアプリについて説明し、こう言った。「もし過敏性腸症候群に悩む人がいたら、Vidaをお勧めします」。

何てことだろう。

アプリを試してみたいと伝えると、「体に起こっている問題を解決する手助けのために、アシスタントが1人つきますよ」と彼女が言った。そして私が公園を去る前までに、サービスを利用するための招待メッセージが送られてきたのだ。

消化器の病気を診断するのは、非常に難しい。口にしたものが体を通り抜ける1~2日間、何が症状を引き起こしているのかという可能性を調べるために詳細な記録を振り返る必要があるからだ。治療法を見つけるには、症状を引き起こした可能性のある食べ物が何であったかだけではなく、症状を引き起こさないために何を食べるべきだったかを理解する必要がある。以前、自分だけでこのような記録を取ったこともあったが、それは信じられないほど多大な時間を必要とする作業で、いつも数日で投げ出してしまっていたのだった。

Vidaを使い始めて数週間、食べたものやその時の気分を、アプリの中に存在する頼れるアシスタントのMindy、つまりPanaで言うところのTimに伝えた。Panaと同様、複雑なインターフェースを学ぶ必要は一切ない。アプリを利用している時は、病気を診断するためというよりは、友人にメッセージを送っているような感覚だった。

Mindyは役立つアドバイスと併せて、食べたもののスナップショットを送るのを忘れないようにする通知も送ってきた。また、その時の症状―我々は「ウンチの点数」と呼んでいた―を1~10の数字で定量化するように促してきたのだ。

しばらくすると、興味深い現象が起こった。


Vidaの健康アプリ上にいるアシスタントのMindy

Mindyは私の食生活を、これまで医者や私自身が決してできなかった方法で分析し始めた。私が口にしたものの栄養素含有量を調べ、その時の気分との相関関係を見たのだ。まるで探偵のように、腸の不調の原因を探る。原因ではなかった食べ物を食べ物リストから消し、食べたもののうち何が症状のトリガとなった可能性があるのか、原因を絞り始めた。そして食べてはいけないものではなく、食べるべきものをアドバイスしたのだ。アドバイス通りに食事内容を変えてみると、症状が改善された。

新しいトレンドの始まり

Mindyの症状の原因を診断する能力は、単に時間が足りなくて医者ができなかったか、その問題に取り組む能力がなかったためにできなかった種類の診断を可能にしていた。体に何が取り込まれ出ていったのかを注意深く観察し分析しないと、Mindyが実施したような診断は不可能であろう。Vidaのような会話アプリは常にユーザがアクセス可能な状態であるようデザインされている。アプリを通じて、より少ない時間で、専門家がさらなるインサイトを提供するために利用する種類の情報をユーザから受信しているのだ。

Vidaと同様、会話アプリの中に存在するPanaの高度な訓練を受けた旅行代理店スタッフは、アプリを通じて適切な旅程を提供し、以前は長時間かけて自分でやらなければならなかった旅行オプションの取捨選択を行う。私は多大な作業時間を削減できた。

このトレンドは、旅行やヘルスケアのアプリに限らない。これら2つがまったく違うサービスであるのに、両方とも「アプリのアシスタント」を提供し、ユーザが複雑な仕事を行うのを助けているという事実から、私はこのトレンドに可能性を感じているのだ。

2015年7月14日に更新: この記事を書いたあと、Panaに投資することを決めた。

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著書
『Hooked ハマるしかけ 使われつづけるサービスを生み出す[心理学]×[デザイン]の新ルール』