DesignX: 新たなデザイナーの社会的役割とは?

Source
Why DesignX? (2014-12-06)

経営アドバイザー、TEDスピーカー、作家。

長年、デザイン教育に携わる人たちと話し合ってきたテーマがある。世界で主流となった、複雑なネット上での社会・技術システムに対して、デザインはどのような役割を果たすことができるのか、ということだ。これは新しい問題ではない。長い間、多くの人々や様々な学問分野がこの問題に取り組んできた。

しかし、デザインが果たせる役割とは何だろうか?制作スキルに力を入れた教育方法によって、この問題に取り組めるデザイナーは育っているだろうか。デザインは、社会にどんな貢献ができるのだろうか。

2014年の秋、我々は上海の同済大学に新設されるデザイン・アンド・イノベーション学部のアドバイザーを勤めることになった(参加者は以下に掲載している)。それがきっかけとなり、翌月から1カ月をかけて「デザインが果たせる役割」についての問題の本質と対処の枠組みに関する方針をまとめた。このアプローチにどのような種類のデザインを関連付けたらよいのか分からなかったが、考えた末、名称についてはXと呼ぶことにした。様々な値を取ることが可能な、変数を意味するXだ。こうした経緯から、このアプローチはDesignXと名づけた。

なぜDesignXが必要なのか?

  1. 「デザインの社会的役割」はデザイナー達が長い間取り組んでいるが、DesignXの目標とは?
  2. デザイナーの役割は何か。このような複雑な(時には厄介な)問題は以前からも身近にあったが、デザイナーは特別なノウハウを持っているのか?
  3. 従来の職人的な制作スキルはどうなるのか? 私たちはその重要性を否定しているのだろうか?

1. DesignXの目標とは?

デザイナーがこれまでにも「デザインの社会的役割」という問題に取り組んできた事実は、私たちを励ますものだ。確かに、これまで数多くのデザイン事務所やデザインのプログラムが、複雑で厄介な問題に取り組んできた。しかし、確立した仕組みも、厳密な検証法も、証拠に基づいたメソッドを使った例もない。

これは、デザインの仕事のほとんどはデザイナーの技術と直感によるものであるという、デザインのコミュニティ全般における問題だ。デザインのレビューと批評といった我々が大事にしているメソッドや、私が指導し実際に使っている、人が中心となって反復するメソッドでさえ、他のメソッドより効果的であるという確証はほとんどない。だから、何が新しいかを明らかにすることこそが、テストが可能な手順とメソッドを組み立てるアプローチを体系化することの目標であり、各メソッドにとって効果的であるというケースだけでなく、不適切なケースも含めて、強みと弱みが明らかになる。

既に、このような内容を取り扱う学問分野がいくつかある。特にシステム科学やサービス科学といった分野だ。これらの分野では、複数の関係者間での複雑な相互作用や、入り組んだ技術、政治、社会、文化的な問題、そしてモジュール化して優先順位をつける必要性や、すべての関係者から信頼と理解を得る必要性も提唱されている。デザイナーは、その研究結果を取り込む必要がある。

デザイナーとは、描くこと、スケッチすること、それらを試すことで思考を掘り下げる実行者であり、制作者であり、実践者である。システム科学やサービス科学は、デザイナーの仕事に対して確固とした科学的な基盤を与えてくれるが、デザイナーは常に科学的な知識を超えた仕事をしなければならない。デザイナーは、技術的な分野でも科学的な知識を利用するが、常にその上を行かなければならない。

なぜなら、世の中では常に予想外の出来事が起こるからだ。環境的要因や特殊なバイアス、複数の関係者からの要求や、さらには最先端の科学知識でも理解できないような予測不可能な事態が常に世界で起きており、こうした現実では必ず起きる捉えどころのない問題は、科学では決して把握できないからだ。

2. デザイナーの役割は何だろうか?

デザイナーは、複雑な問題を解決する上で、様々な技能を提供する。しかし、何よりもまず考えなくてはならないのが、共感を取り込むことだ。対象となるシステム内で働き、システムを認め、システムの成果から恩恵を受ける人々のニーズを取り込むことである。これは複雑な作業だ。というのも、ここで言う”人々”とは、個人を意味することもあれば、グループや組織、さらには政治的な集団を意味する場合もあるからだ。

この複雑に絡み合う問題に取り組む際に、従来の専門家の多くは、組織や効率という観点からアプローチする。しかし、実際の成果を提供しなければならない人々(サービスデザイン用語で言う”舞台裏の人々”)だけではなく、サービスの恩恵を受ける人々もまた、解決策の一部とならなくてはならない。なぜなら、理解や信頼、快適さといったことを確実なものにすることが、この試み全体を成功させる上で不可欠だからだ。

こうしたニーズを満たす上で、デザイナーにとって必要なのは、信頼できる手法である。それは、強みや弱みや適切な展開方法が理解できるように検証された手法でなくてはならない。

3. 従来の職人的な制作スキルはどうなるのだろうか?

私たちは決して、製品やサービスの開発過程におけるデザイナーの従来の技術に取って替わるものを提案しているのではない。グラフィックデザイン、コミュニケーション、インタラクション、インダストリアル/プロダクトデザインなどには全て、優れた職人的な技術が必要だ。しかし、こうした卓越した素晴らしい技術は、DesignXが焦点を当てるものの特徴である、複雑なネット上での社会・技術システムにおける解決策を提供できるほど強力ではない。

まとめ

DesignXには新しい技術と知識が必要だ。異なるバックグラウンドや興味、価値観を持つメンバーから成るチームを形成し、リーダーシップを取りながら、様々な分野の専門知識を連携させることが求められる。これらの複雑なシステムを理解することが求められるのだ。

何といっても、重要な言葉は”システム”である。デザイナー達は通常、比較的シンプルな製品やサービスを製作する訓練を積んでいる。DesignXは、何百、何千、さらに何百万もの人々から成るコミュニティ全体が関わり、直面する可能性のある問題の重要性を高めるものだ。問題に関わるのは、個人であり、グループであり、組織であり、技術である。シンプルなものも複雑なものもある。独自のルールとプログラミングに従って動く自律的なものもある。こうした問題に対処するには、新しい訓練、新しい技術、新しい手法が必要なのだ。

より具体的には、DesignX: デザインによる改革のための道筋を読んでほしい。

またDesignXの全容に関する解説はいろいろあるが、特に以下のサイトもお勧めする。

http://tinyurl.com/designx-statement
http://www.jnd.org/dn.mss/designx_a_future_pa.html


DesignXの共同メンバーは次の通り(アルファベット順):Ken Friedman(同済大学デザイン・アンド・イノベーション学部、スウィンバーン大学デザインイノベーションセンター)、Yongqi Lou(同済大学)、Don Norman(カリフォルニア大学サンディエゴ校、デザイン研究所)、Pieter Jan Stappers(デルフト技術大学工業デザイン工学部)、Ena Voûte(デルフト大学)、Patrick Whitney(イリノイ技術協会、デザイン協会) お問い合わせはdesignxcollaborative@gmail.comまで。

この記事のオリジナルはCore77.comに掲載されました。